閑話(ルミナスSide)
俺は魔塔所属の大魔術師ルミナスだ。
日々忙しく働く俺が、最近話題になっているイシスとかいう少女のいる“辺境の地”へ派遣されることになった。
大魔術師になったのは間違っていたな。今までなら、嫌な仕事からは逃げることができたのに…。
魔塔主がどうしても行けと言うから…今回は仕方がない。
サクッと行って、呪いとやらをサクッと解呪してくればいいんだろう?
面倒くさいな。
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エルフと人のハーフである俺は、すでに60年を生きている。因みに見た目は20代だ。
そんな俺が、生まれて初めて…ときめいた。
何だ?このキラキラした見目麗しい少女は?
とんでもない魔力量じゃないか?…ちょっと待て…俺、ひょっとして負けてたりしない?
心臓がドクドクと煩い。興味を惹かれる。
興奮していた俺は…気付けば…両手で少女の手を握り締めてしまっていた。
だが、すでに婚約者がいるらしい。
無性に腹が立った。婚約者など…無視だ、無視。
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観察すればするほど…イシスは不思議で魅力的な少女だった。
時折、ボーッとどこかを眺めたり、集中してジーッと見つめたり…金色の瞳は…くるくる色合いが変わるような気がする。
一見、大人しいおっとりとした令嬢という感じなのに…膨大な魔力を使ってテキパキと魔術を操るし、常に先を見て行動するから…きっと頭がいいんだろうな。
細やかな所作は洗練されていて、貴族令嬢らしくとても美しい。華奢な身体は儚げで…繊細な雰囲気を醸し出している。男たちの庇護欲を刺激するに違いない。
そして、笑顔が可愛すぎる…ずっと見ていられる…。
…あぁ…手元に欲しい。イシスで頭がいっぱいだ。
婚約者のフェルナンドが邪魔だな。
イシスに一目惚れとか、一方的に想いを寄せているとかで…強引に婚約を結んだんじゃないのか?
まぁ、最悪…結婚したとしても、魔塔にイシスを引き入れればずっと俺の側に置いておける。あれほどの魔力持ちだ…魔塔主も喜ぶだろう。
俺とイシスとでは寿命が違う。夫婦としては成立しなくても…それでも…いい。
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俺は、聖魔力を持っていることを魔塔主以外には隠している。
神殿とかいう、クソつまらない組織には入らないと決めているからだ。
神殿を訪問したことはあるが、毎回下っ端聖女がしなだれかかってくる…。
あそこは別名“娼館”か?それとも、俺の顔が無駄にイイのが悪いのか?
魔塔主は俺の顔ではなく、利用価値をちゃんと分かっている。だから魔塔にいるんだ。
イシスはそんな俺の聖魔力に気付いていた。
なぜ知られたのか?全く分からない。だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
『瘴気溜まりを浄化して欲しい』というのが願いのようだ。イシスは魔力を悪いことに使おうなどとは考えない。
天使なのかな?
俺が聖魔力を隠していることも分かっているんだろう、バリア内なら秘匿可能だと話す。
イシスとの距離をもっと縮めようとしたところで、邪魔者が乱入してきた。
婚約者のフェルナンドは、それはもうイシスにベタ惚れだ。クソッ!今では奴の立場が羨ましくてたまらない。
「ルミナス様、私はフェルナンド様の婚約者、私の全てはフェルナンド様のものですわ。
ですから、私を欲しがってはいけません」
そう言って、イシスはキラキラ輝やく金色の瞳を真っ直ぐ俺に向けた。
一瞬、その瞳の中に意識が吸い込まれた…ような気がした…。
─欲しがってはいけない─
頭の中に、その命令が鋭く突き刺さる。
俺の強い願いはイシスの言葉によって否定され、溢れ出ていた“欲求”は…“NO”という指令を受けて強制的に押し込められていった。
「…そう…か…。欲しがっては…ダメなのか」
「ダメなのです」




