52話
翌朝早く、ルミナス様は1人で入江に出かけ…呪いを解呪した…との報告が届いた。
魔力切れを防ぐため、解呪後は城でゆっくりと休むことになったご様子。
予想よりも…かなり魔力を使ったらしい。
『後の始末は、イシス嬢に任せたい』
そう言って、部屋へと戻って行かれたとか。
丸投げされた私も、呪いがなければどうにかなるだろうと思い…ガーラント辺境伯様、フェルナンド様、辺境伯軍の兵士6名、総勢9名で…ぞろぞろと入江へ向かいました。
ルミナス様がいなかったので、フェルナンド様の足取りは軽く…ご機嫌でしたわ。
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「これに…龍の呪いが込められていたのか」
辺境伯様がポツリと呟いた。
側面に例の言葉が刻まれている、大きな銀色の器?のようなもの…直径は両手を広げたくらいかしら?高さはその半分ね。
この大きな銀色の器は、呪いを解呪した後…入江の窪みから安全な陸地へと、ルミナス様が運んでくれていたものだ。
…それで…魔力消費したのかな?
「中を確認しても大丈夫なのか?」
フェルナンド様は訝しげに銀色の器を見る。
「中身については何の報告もなかったわ…ルミナス様は見ていないのかしら?解呪されているから、大丈夫だとは思うけれど…」
解呪後だから、私たちはこうして銀色の器を取り囲んでも安全なわけで…でも、心配。
「念のため…私が先に視るわ」
少し魔力を多めに使うけれど、側で触れる物の中身ならばある程度視れる。
銀色の器の蓋部分に手を当てて…意識を集中させる。
薄っすらと…中身の影が視えて、徐々にその形がハッキリとしてくる…。
「……っ!……あ…これは、…開けないほうがいいわ…」
「…え?…」
「何と!まだ呪いが?」
フェルナンド様も辺境伯様も驚いていた。
「いえ…禍々しい気は感じません。…ただ…これはちょっと…このまま、城へと持ち帰りましょう」
辺境伯軍の皆様が代わる代わる銀色の器を持ち運び…私たちは帰城した。
「ガーラント辺境伯様…ルミナス様が回復してから、呪いについてのお話があると思います」
せっかく入江まで行ったものの、辺境伯様は釈然としない状態でしょうね。申し訳ないわ。
「うむ。では、また夕刻の報告を待とう」
「はい。…あの…少し…厳しい話になるかもしれないですわ」
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辺境伯様、ローウェン様、フェルナンド様、私、そして…まだ少し気怠そうなルミナス様の5人が執務室にいる。
「イシス嬢…アレはどうだった?」
ルミナス様は私に丸投げしたから…気になっている…ということよね。
「ルミナス様は、中をご覧になりました?」
「うん?…見た…というべきかなぁ…」
「私の判断で、開けることはしませんでした。…中身は…分かっていますわ。
では、解呪された呪いについて…ご説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
『ふぅん…やっぱり分かるんだ』と、小声で言いながら…ルミナス様は長い髪を面倒くさそうに束ねる。
少し尖ったような耳が見えた。
「先ず、龍の呪いは2重で…あの銀色の器と…その中身、両方に呪いがかかっていた。だから、もの凄く強力な呪いだということ」
辺境伯様は大きく目を見開いて、驚愕していた。
「かなりの魔力を持っていかれたが…解呪はできました。私でなければ無理でしたよ」
「ルミナス殿…ありがとうございました!」
「あれほどの邪気を5年も放置していたとは…驚きです。
領地の管理や魔物討伐をどうしていたかは知りませんが、イシス嬢には感謝するべきだと思います。
彼女は…飛龍を倒す力があるのに、その元を絶つほうが重要だと考えた。呪術を知る者に頼るという判断も正しい。
ただ人員を補充し、討伐すれば済むということではなかったのですよ…辺境伯」
ルミナス様からの厳しい言葉を受け、辺境伯様の顔は真っ青になった。




