51話
「ルミナス様」
城の東側に広く張り出し、見張り塔と繋がっている外廊下で、ルミナス様に声をかけた。
「おや、イシス嬢…フェルナンド殿は?」
「今、魔物討伐に出ていますよ」
へぇ…と、ルミナス様は魔物の森へ視線をやる。
「見事な…結界ですね。何の術かな?」
「あれは、トラップとかけ合わせた特殊なものですわ」
「かけ合わせ?…イシス嬢は…凄いな…」
「フフッ…凄いのは、ルミナス様でしょう?」
キョトンとするルミナス様。
「ルミナス様、“龍の呪い”の解呪には…どのくらいの魔力をお使いになるのですか?」
「…そうですね…半日あれば回復する程度の魔力かと思います。解呪は明日朝を予定していますが…何か?」
浄化するような魔術は、きっと結構魔力が減るのよね…。
私はそんなことを考えながら、魔物の森の奥に瘴気溜まりがあることをルミナス様に話した。
「神殿には浄化のお願いをしたのですが、どうやら…聖女様はこの地がお嫌いなようで…この様子だと」
「来ない…ですか」
「えぇ、多分。ですから、誰か浄化できる方がお手伝いしてくださらないかなぁ?と思って」
ルミナス様みたいな…聖魔力を持つ人が…。
「ん?…イシス嬢、あなたは……いや……」
「今、瘴気溜まりの一帯にはバリアが張ってあるのです。このバリアの中に入ってしまえばどんな魔術を使っても外には漏れないって…グランド様の後を継いだ“大魔術師ルミナス様”なら、当然ご存知ですよね?」
ルミナス様は、呆気にとられた顔で私のことを見ていた。
「…は…あははっ!何でもお見通しかぁ…恐ろしい人だ。どれほどの能力を秘めているんです?
…益々…あなたが欲しくなったよ」
「欲しくなる?」
「あぁ…イシス嬢は神秘的で美しい。とても…心惹かれる…」
ルミナス様が手を伸ばし、私の髪に触れそうになる。
突如、腰に逞しい腕が回され…グイッと身体が後ろへ引っ張られた。
…あれっ…?!
ハァハァと肩で荒い呼吸をする…フェルナンド様だった。
鬼の形相で、そのまま私を胸の中に抱き込んでしまう。
「凄いスピードだねぇ…。森から真っ直ぐにこちらへ向かってきたのか…?
ふぅん…フェルナンド殿は、イシス嬢がどこにいるのかオーラで分かるんだ」
「…ルミナス殿…あなたは私の婚約者に何をしているのだ」
「は、…何も…?…思ったことを言っただけですよ。全く…あなたが羨ましいな、フェルナンド殿」
フェルナンド様は、ギロリと強い視線でルミナス様を見る。
「…フェル…落ち着いて。話していただけ」
「……………」
黙ってはいるけれど、こめかみに青スジを立て…怒りに満ちた表情のフェルナンド様。
私は腰に回されたフェルナンド様の腕を解いて、ルミナス様へと向き直った。
「ルミナス様、私はフェルナンド様の婚約者…私の全てはフェルナンド様のものですわ。
ですから、私を欲しがってはいけません」
キラキラと妖しく光る私の宝石眼を…ルミナス様はただジッと見ていた。
「…そう…か…。欲しがっては…ダメなのか」
「ダメなのです」
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フェルナンド様に引っ張られるようにして部屋へ戻ると、そのまま浴室まで連れ込まれてしまった。
汗だくのフェルナンド様の服には魔物の返り血、抱き締められた私の服にも血が付いた。
百歩譲って、シャワーを浴びるのはいいけれど…いろいろとおかしくないかしら?
戸惑う私の頭上からは容赦なく熱いシャワー。
服の血も洗い流されていく…。
ビショビショ状態の私は…苦しいほど強い力で抱き締められる。
「…フェル……ん…痛いわ…」
「……取られるかと……思った……」
「私は、フェルだけのものよ?」
「…早く…結婚したい。もう待てない」
“待てない”とは、
年齢的な話だけではなく、精神的な部分が意外に大きかったのね。
私は大人しく…フェルナンド様に抱き締められていた。




