50話
「ルミナス殿、私の可愛い婚約者が驚いている。それに…あまり触れないで貰いたい」
フェルナンド様はルミナス様の行動を咎め、軽く牽制すると…私の肩を抱き…自分のほうへと引き寄せた。
「…あ、…まだ婚約者なんですね?」
「……っ!!……」
ルミナス様、フェルナンド様が殺気立ってしまうので…余計なことを言うのはおやめください。
私たち、2ヶ月後には夫婦になるんです。
あぁ…お2人ったら睨み合ったりしないで…
でもまぁ、それはそれで…美しい絵画みたい。眼の保養?
「コホン。さて、ルミナス様は呪術にお詳しい…ということでよろしいですか?」
「えぇ。黒い呪いだとお聞きしたので…私が適任ではないかと魔塔主が…」
「早速ですが、入江に一度お連れしても?」
「イシス嬢がご一緒なら…喜んで」
んん…?…ルミナス様は、私のファンなのかな?
フェルナンド様のお顔は、苦虫を噛み潰したようになっていました。
──────────
今回もまた、草をかき分けて進んで行く。
フェルナンド様も私も保護の術で身を守って準備万端。
突然、ルミナス様が私たちの前にスッと腕を出した。
「この先は…行くのを止めたほうがいいと思います」
「え?」
入江までは、まだ幾分距離がある。
確かに、この前は入江の側まで近付いて大変なことにはなったけれど…もうこの辺りからよくないのかしら?
「ちょっと、思っていたよりも厄介かもしれません。
お2人を守り切る自信がないので…この先は行かないで貰えるとありがたいです」
「ご迷惑になってはいけませんわね。…分かりました…あの、ルミナス様」
「はい、イシス嬢」
ルミナス様が私の眼を見た。私もルミナス様の眼を視た。
─少しだけ、未来を視せて─
♢
ルミナス様は、結界を張って自分を守り…淡く光る魔法陣をいくつも展開して…入江の内側を観察する。
禍々しい呪いの触手は、ルミナス様には全く近付けない様子。
あぁ…聖魔力だわ…。これなら安全ね。
♢
「…どうか…お気を付けて」
「…?…はい、ありがとうございます」
しばらくして、ルミナス様は無事に私たちのところまで戻って来た。
少し対策を練る必要があるということで、一旦城まで戻り、明日以降に解呪を試みる。
──────────
「気に入らないな…あの男…」
「フェル、そんなに怒らないで」
私たちは今日も仲良く一緒に眠る。
「イシスを狙っているんだ、黙っていられないだろう」
いくら狙っても、私はフェルナンド様の婚約者。ルミナス様には何の旨味もないように思うけれど…。
「うーん、フェルみたいに愛情を感じないわよ」
「…ん?…私からの好きとは…違うということか?」
「そういう意味なら、全っ然違うわ。ルミナス様は、私が物珍しいだけよ。ちょっと興味があるだけね」
「それでも…心配で…どうにかなりそうだ」
洗いたての黒髪を、子供みたいにクシャクシャと掻き回す姿を見て…クスクスと私が笑うと…ムッとするフェルナンド様。
「どうしたらご機嫌が直るのかしら?困ったわ……キャッ……」
私に覆い被さり、真剣な顔をしてジリジリと近付いてくる。
鼻の先がツンと当たる。
「君は…絶対…誰にも渡さない」
ヤキモチ…?…独占欲…?…本当に可愛い人。
「……んぅ……」
息ができないくらい…激しく唇に吸い付かれる。
「…は……イシス……口…開けて…」
「…やぁ……ん…っ……苦しっ…」
「……ダメ……」
互いの舌が絡み合い、いやらしい濡れた水音が小さく部屋に響く。
酸欠で喘いでも…離しては貰えない。




