45話
チュッ……チュッ、チュッ
フェルナンド様は…額や瞼に頬…私の顔中…唇で優しく触れてくる。
「…あ…、もう…フェルったら…」
「私も…愛してる、イシス。…結婚しよう…もう待てない」
結婚適齢期後半の26歳…のんびりしていたら大変?
私の顎を優しく持ち上げ、トロンとした目を向けてくるフェルナンド様…親指が唇を掠めるように少しだけ触れた。
「…ん…」
何だか…周りの空気が甘い。
魅了の術にかかったみたいにフワフワした感覚。
そして、フェルナンド様の表情から溢れ出る愛が凄い。
「私の妻に…なって欲しい…」
「…妻…」
「イシスを独り占めしたいんだ。いい?」
「…はい…」
フェルナンド様は、ホッと緩んだ表情になった。
「じゃあ…約束の証…」
私の唇は…あっという間にフェルナンド様の唇に塞がれた。
私を愛しそうに見つめる青い瞳から逃れることはできず…何度も口づけられてしまった。
柔らかくて…熱い唇だった。
…これは初めての感覚…
─────────
私とフェルナンド様は婚約した。
結婚は3ヶ月後…これがどうやら最短らしいの。
ランチェスター侯爵家からの手紙を読んで『イシスは純潔に決まっている』と、フェルナンド様が憤慨していたわ。
貴族たちはほとんどが政略結婚。
幼少期から結婚相手が決まっていることもよくある。
令嬢たちは15歳を過ぎれば書類上正式な婚約が可能、政略結婚故に…結婚が数年後などは当たり前。
そんな中、婚約期間が短いと…女性が懐妊しているのでは?と悪く思われることもあるらしい。
高位貴族では、妻が処女であることは必須。
貞操観念を疑われるような良からぬ噂を払拭するためにも、必要な期間が3ヶ月だとか。
私はよく分からない。最終的にフェルナンド様の願いが叶うなら、いいんじゃないかな?
私を妻に…と、望んでくれた時のフェルナンド様とのことを思い出すと…今でも恥ずかしくて顔が火照ってくる。
あれから、ちょっとしたことでも変に意識し過ぎてしまうのよね…。
気付いているのかいないのか…逆にご機嫌に見えるような?フェルナンド様は、いつものように私に甘々のベタベタである。
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「ローウェン様が?」
「うん…今は、気持ちとして難しいだろうとは思う。ただ、避けては通れないからね」
このポジションが私の定位置なのかな?
フェルナンド様の長い足に挟まれ…後ろからキュッと抱き締められている。
「そうよね…次の結婚相手を探すというのは…確かに。
後継者となったローウェン様には、それなりの責任があるってこと?」
「まぁそうだね。今のところ、再婚はしないと心に決めているご様子だが…今後は分からない。
再婚に関しては、本人がどうあれ…無理やり結ぶことはできる。だが、結局は子作りしなければ…跡継ぎ問題は解決しない」
「こ…子作り…?」
何だか言葉を聞いて赤くなってしまった。
どうしちゃったのかな…私。意識し過ぎ病を発症中。
「ん?普通に愛し合っている夫婦なら、そんな心配はしないからね。私とイシスは大丈夫」
チュッと、頬に口づけられる。
うん、3ヶ月したら…夫婦になるんだものね。
こういう男女のことって…やっぱり同性に相談したいな。私、何も知らないもの。
「ガーラント辺境伯も言っていたが…最終手段は、養子縁組かもしれない」
「辺境伯様が養子を認めるなんて、意外ね」
「実はね…亡くなった辺境伯夫人は、跡継ぎを生むためだけの妻として…城でぞんざいに扱われていたんだ。
ガーラント辺境伯はそのことを深く悔いて…再婚をしなかった」
「…跡継ぎを生むだけ?…政略結婚だったのね…」
「…あぁ…。魔物討伐に必死で余裕がなかったとはいえ、夫人と言葉も交わさず…問題を放置していたと…そんな話を聞いた」
酷いわ。
フェルナンド様なら、絶対にそんなことはしないのに…たとえ政略結婚だとしても!
「ローウェン殿が、また誰か愛する人に巡り会えるのならば…それが1番いいけれどね」
辺境伯様は、跡継ぎのためだけに再婚をしろと強くは言えない。だから、ローウェン様の後継者は養子もありということなのね…。




