44話
「森の奥まで?!」
ローウェン様は椅子から勢いよく立ち上がって、驚いていらっしゃった。
どうやら、あの場所へたどり着くことは今までは不可能だったらしく…瘴気のことは知らなかったという。
まぁ、私たちも真正面から!というよりは…こっそり隠れて行ったのだけれど。
「私の小軍隊でも奥のほうまでは…とにかく、大型で強い魔物が非常に多いのです」
「きっと、瘴気の沼のせいですよ。あの場に近くなるほど、魔物たちは攻撃的になっていったはずですわ」
「沼の一帯は封印の術を施してあります。イシスがバリアも張っておいたから問題はないと思いますが…やはり、帝国から聖女を呼んだほうがいいのでは?」
ローウェン様は、うんうんと軽く頷いた。
「この1週間で、城の状況は大きく変わりました…全てお2人のお陰です。本当にありがとうございます。
聖女様のことも含めて…義父上に、一度ご相談してみます」
私たちは良い報告ができたことに満足し、その場を後にした。
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「…少し疲れたわ…」
夕食を後回しにして、部屋に戻り湯浴みを先に済ませた。
「ローウェン様、誠実で素敵な方ね。ご令嬢が好きになった気持ち…少し分かるかも」
「あぁ、実直な方だな。イシス、その好きという気持ちは…どんな気持ちだ?」
不意にそう聞かれて…。
「ご令嬢は、この人の側なら安心して穏やかな気持ちでずっと生きていける…そう思ったんじゃないかしら。
魔物討伐で疲弊した状態でも、ローウェン様といる時間は心が安らいで幸せだったんだと思う。
ローウェン様、真っ直ぐで…ご令嬢一筋だった気がするもの」
「それは…視たのか?」
ご令嬢の最期を知らせる時に…少し…ね。
「どれほど愛していたかは…分からないわ」
「…そうか…」
「でも、フェルの愛は視えるわ」
いつも、あたたかいオーラでいっぱい愛を伝えてくれるもの。つい視てしまうくらい。
「…うん…それは、愛している…から…だな」
「照れてる」
フェルナンド様のまだ少し濡れた髪にチュッと口づける。
可愛くて愛しい人だと、もう私は気付いてる。
「ずっと側で生きていきたいと…イシスにそう思って貰える存在になりたい」
頬をほんのりピンク色に染めて…上目遣いで私を見る彼の髪に、もう一度口づけた。
ランチェスター侯爵家にいた時は、フェルナンド様は仕事でほとんどいなかった。
夜には必ず会いに来てくれていたけれど、触れ合う時間は少なかったのよね。
ここに来てから、いつも一緒に行動して…愛の告白を受けてからは寝る時も側にいる。
でも、全く煩わしさを感じないし嫌じゃない。
フェルナンド様は私が本当に嫌がることをしないから。
たとえば、服を着替えさせようとしたり…一緒にお風呂に入りたがったり。
嫌よって言えば、叱られた仔犬みたいにシュンとなる。
私との距離を縮めたいのが見えて…可愛い。
「私…フェル以外の男の人と、こんな風に生活できるのかな?」
「そんな機会は与えないから」
フェルナンド様が速攻返事をして、ギュッと胸の中に私を引き寄せる。
これもまた…可愛い。
「絶対に離れない」
「私を独り占め?」
「………………」
「フフッ…苦しい。…フェル…愛してるわ…」
ガバッ!
私の両肩を掴んで、自分の胸から引き剥がしたフェルナンド様…濃いブルーの瞳が嬉々として輝いている。
「イシス!…い…今…何て…」
「フェルを…愛してる…」
フェルナンド様が破顔した。
あ、これは…久しぶりにきたぞ…眩し過ぎて危険なやつ。




