43話
「イシス、父上から返事が来たぞ」
バイセル王国について、侯爵様に調べていただいた。
「…これは…」
バイセル王国は魔術がとても発達している国だった。
飛龍襲来はやはり年に1回程度で、その討伐方法は魔術による“拘束”と呪術による“呪殺”。
当然、弓などは使用していなかった。
「…呪殺…?」
「視察に来る必要などないな」
「そうね。何ならこちらが行くべきね」
『城を見てみたかった』と言われればそれで終わりだけれど、強い違和感が残る。
飛龍の襲来は何かに誘発されているんじゃないか?と、考えているけれど…それは単なる私の予想に過ぎない。
そもそも、そんなこと…できるのかな?
────────
「5年前のバイセル王国使節団?」
「はい。ガーラント辺境伯が覚えていらっしゃる範囲で構いません、教えていただけないでしょうか?」
「…あぁ、帝都でフェルナンド殿と手合わせした時だな?よく覚えているよ」
辺境伯様はジェンキンス様に当時の資料を持って来て貰うと、同席させた。
「えー…特別変わった内容の記載はありませんが…あ、船を海に停泊しているようです」
「うむ。確か…使節団は帝都を出て、陛下とご一緒にこの城を視察した後…次の訪問国へはここから船で行くという話になっていた。
私が帝都に行く前日には船が停泊していたな」
「船…ですか」
船は気になるけれど、記録を見ても…使節団の行動におかしなところはなかった。
使節団がいくつかの国を順に巡ることはよくあるし、最初に帝国を訪れるのが礼儀だろうとも思う。
証拠も何もない状態では、バイセル王国について話すわけにもいかない。一旦、ここまでか…。
─────────
魔物たちは本当に私の魔力に怯えているようで、森から襲ってくることは少なくなった。
それでも、強い魔物は向かって来る。
気配を察知すればフェルナンド様が即討伐しているけれど…森の奥へ入り込むほど、悪いオーラが漂っていると感じたそうなの。
森には、何かある…?
気になることは調べるしかない。魔物の森へ調査に出かけることにした。
新しく後継者となられたローウェン様に、不在の間の城の警備をお願いしてから…
私たちは保護の術で身を守り、隠密の術で身を隠して調査に向かった。
途中、巨大な魔物には遭遇したけれど、私たちの気配に気付くことはなく…フェルナンド様が秒殺。スムーズに奥へと進むことができた。
そこには…フェルナンド様が感じていた通り、禍々しい気に満ちた場所があった。
黒い沼。
巨木の周りを囲むように水が溜っていて、その真っ黒な水面からは瘴気が立ち昇っている。
フェルナンド様が酷く顔をしかめた。
一体どんなオーラが見えているのかしら?
魔物が数体、その黒い水を飲んでいた。小さな魔物などは水の中に浸かっている。
一見、魔物たちのオアシスという感じ。
瘴気は魔物を生み出す源となる。
さらに、魔物を引き寄せたり…強く獰猛にする。私が読んだ本にはそう書いてあった。
つまり…放置しておいていいことなんて、1つもない。
あの木が原因?
だとしても、この場所は封鎖しなければ…。
フェルナンド様が剣を構え、素早い動きで魔物に斬りかかる。
見えない敵に襲撃され逃げ惑う魔物たち。
フェルナンド様は容赦なく、バッサリと切り捨てていく。
強い魔力を剣に纏わせることが上手いし、切り込む際に無駄な動きが一切ない。
その姿はまるで暗殺者のよう。
隠密の術を施していても、私にだけはその雄姿と美しい剣筋がはっきりと見えている。
緑や紫の血飛沫がなければもっと素敵なのだけど。
周りに魔物がいなくなったことを確認して、この瘴気溜まりとなった場所を封じた。




