39話
飛龍は無事に討伐できた。…のだけど…
私は今…フェルナンド様にガッチリと抱き締められてしまっている。…く…苦しい。
「…なぜ…たった1人で向かった…」
聞いたことがないくらい低い声が…頭の上から聞こえてくる。怖い。
「ご…ごめんなさい。襲来まで10分くらいしか時間がないと思ったから…それで」
「飛龍を見たこともない、魔術を使って戦ったこともない…知識が全くないだろう?」
「戦えなくても…フェルのいるお城を守らないと…」
フェルナンド様は、フウッ…と、小さくため息を漏らし…自分の額を私の額にピタッとくっつけた。
「私がどんな気持ちだったか…分かるか?」
「………ごめんね…フェル………」
「君に何かあったら…私は…」
ゴホン、と咳払いが聞こえた。
「あー、フェルナンド殿。…もうそのくらいにしてはどうかな?」
フェルナンド様はまだムスッとしている。
「イシス嬢、あなたの素早い行動には感謝しかありません。城は無傷、負傷者もいない。
…本当に…見事な戦いだった…」
「ありがとうございます。よかったですわ」
「後は城の者に任せて、休まれるとよい」
「いえ、ガーラント辺境伯様にお許しをいただけるのなら…少しお城の周りを拝見させていただきたいのですが?」
目を見開いて、辺境伯様が固まった。
あら…?…どうされたのかしら…?
「あ、あぁ…失礼した。飛龍の討伐を終えたばかりで、イシス嬢はお疲れではないのか?…倒れている魔術師もおりましたが…」
「歩いて回るだけですから、平気ですわ」
「なるほど。それならば…かまいませんよ」
よかったわ、一度視て回らないとね。
「イシス、私はまだガーラント辺境伯と少し話さなければならない。今は部屋に戻れ」
フェルナンド様、まだ怒っているわ…。
─────────
なんだろう…あったかい。
「…ん…」
あ、部屋に戻って…寝ちゃってた?!
私はフェルナンド様の両腕に包まれた状態で、ベットにいた。
「やはり…疲れていたな?」
「…フェル…戻って来たなら、起こしてよ」
「寝顔見たら…起こせるわけないだろう」
もう怒ってないのかな?
フェルナンド様の頬にそっと触れてみる。
「…ん?」
「怒ってる?」
「…いや…」
私の手を頬から外して、指先にチュッと口づける…いつも涼し気な濃いブルーの瞳が、何だか熱っぽく感じるのは気のせい?
私がジッと見つめ返すと…フイ…と目をそらされる。
「少し話そう。おいで…イシス」
手を引かれて、ソファーへと移動する。
フェルナンド様の足の間にチョコンと座らされ、後ろから腰をギュッと抱かれる。
ガーラント辺境伯令嬢との婚姻の話を受けることはしなかった…というフェルナンド様。
「ガーラント辺境伯は、私のような余所者が突然やって来たところで…辺境伯軍の先頭に立つのは難しいとお考えだったんだろう」
「それで、婚姻契約が必要に?」
フェルナンド様はゆっくりと頷いた。
「だが、イシスが飛龍を討伐したあの場では…ガーラント辺境伯も含め、全員がイシスの指示に従った。
突然やって来た君が、辺境伯軍を見事率いたんだよ」
「あ…あれ?…そんな大事だったかな?…」
今思えば、結構必死だったのかも?あまりよく覚えていないわ。
「父上が言っていた“結果が全てだ”とね。
今1番困るのは、イシスという戦力がここから去ることだろうな…フフッ」
「もう…私は…フェルを守るためにここにいるのよ」
─チュッ……チュッ─
「ひゃっ!」
「…愛してる…イシス」




