36話
辺境の地にたどり着いた私たちは、とりあえず用意されていた一部屋で…寛いでいだ。
ガーラント辺境伯様は赤髪で背が高く、威圧感があった。いかにも戦士という感じの方だ。
「予想通り歓迎はされなかったな…ごめん」
「え?全く気にしていないわ」
フェルナンド様から、ここに至るまでの事情は全て聞いていた。辺境伯様の苦しい気持ちも…分かっているつもり。
婿養子となるはずの男性が見知らぬ女性を連れてやって来たのだから、当然こうなる。
それでも、私はフェルナンド様を守る。
─絶対に“先読み”で視た未来のようにはさせない─
私は両手を広げてグーッと背を伸ばした。
「ここは辺境の地だから、私がありのままの姿でも…何も気にすることはないのよね」
宝石眼でも気にならない。魔導ゲートを通ってからは魔力も解放しっ放しよ。何て楽なの。
「それは分かっているんだが…私はイシスが可愛すぎて、心配だよ」
そんなことを言って私の手を握ってくる。
フェルナンド様は、そこを…気にしちゃうのね…?
これから辺境伯様と話をしなければいけないフェルナンド様は…緊張した顔をして、ソワソワと落ち着かない。
パーティーで泣いていた時もそうだったけれど、こうやって普段と違う姿や感情を素直に見せてくれるのは…ちょっとうれしい。
フェルナンド様こそ可愛すぎる。
「私の気持ちは、昨日話したでしょう?何が心配なのか…私には分からないわ?」
───────(昨夜:侯爵家での出来事)
互いに離れない!宣言をし合った私たちは、侯爵家の皆様にもちゃんとお話しをした。
2人で必ず辺境の地を救うと約束して、侯爵様にもお許しをいただいたの。
私の部屋で、フェルナンド様とたくさんお喋りをしながら…手を繋いで一緒に眠った。
フェルナンド様が『私の気持ちを知りたい』と言うので、恥ずかしいけれど思い切って答えることにしたわ。
一緒にいたら心地いいこと。
カッコいいし、優しいお兄様が大好きなこと。
でも、離れると悲しくなるから嫌で…他の人と結婚しちゃうのも何となく嫌だと言った。
「イシス、私は“お兄様”をやめようと思っている。1人の男“フェルナンド”としてイシスの側にいたいんだ…いいかな?」
そ…そんな、ちょっぴり頬を赤くして…潤んだ瞳で言われたら、断れないのよ!
これからは、お兄様呼びは禁止にされてしまった。
「でも、何か変わるの?」
「ん?だって…『カッコいいし、優しいお兄様が大好き』の“お兄様”が“フェルナンド”に変わるだろう?」
「…えぇ?…」
そ…そんなこと言って!もう!調子狂う。
ボムッ!と顔から火が出たみたいになった。
そんなアタフタする私を見て、フェルナンド様はとってもニコニコしていた。
「そうやって、もっと私のことを男として意識して欲しいな」
チュッ…と髪に口づけて抱き締められてしまう。
うーん…抱き締められるのも…好き。
「イシス、髪へキスするのは…愛おしく思っているからだよ。私はイシスにしかやらないからね」
むむっ…恥ずかしい。でも、嫌じゃない…。
この前のパーティーで、私がフェルナンド様の髪に口づけたあの時…あれが愛おしいって感情なのね。
じゃあ、私もフェルナンド様と同じ気持ちってことなのかな?
「…後…私の部屋の隣であるこの部屋は、未来の妻の部屋なんだよ。知ってた?」
私の髪を撫でながら、フェルナンド様が爆弾発言をした。
翌朝、目覚めた私のすぐ側には…美しいフェルナンド様のお顔があった。
スースーと…規則正しい息づかいが聞こえる。
隣で眠っているだけなのに…私をあったかい幸せな気持ちにさせる…不思議な人。
─チュッ─
私はフェルナンド様の髪に優しく口づけた。




