31話(フェルナンドSide)
「この前のパーティーでも、アンデヴァイセン伯爵家の兄妹がイシスに絡んで騒いでいたわね。早く貴族社会から消えたらいいわ!フンッ!」
さすがに皇族主催のパーティーではバジルを見張らせるわけにはいかなかったが、その少しの油断がイシスを傷付けた。後悔しかない。
「いつか…抹殺してやりたいと思ってはいますよ」
「いつか…なの?」
「母上、イシスの宝石眼で視えないものはありません。
彼女の意志で視ないだけで、いつでも全て視ることができるのです。
隠しごとなど一切できませんから…分かるでしょう?後ろ暗いことはしたくないのです」
「おいおい、2人ともやめないか…」
父上は、私と母上とのやり取りを聞いて苦笑していた。
「それより、イシスの気持ちはどうなのだ?その…お前のことは好きなのか?」
「嫌われてはないと思っていますよ。ただ…家族として認識されてしまって…その…」
「フェル、オーラで感情が分かるのではなくって?」
「イシスは魔力の量も異能力者としても私より格上なのです。勿論、多少は読めますが…イシスのオーラは常に穏やかですからね」
そう…そのオーラが、いつも私の気持ちを和ませるのだ。
「意識されてないってことじゃない!駄目よ、もっとイシスの心をちゃんと掴んでおかないと。お嫁さんになってくれないわよ?!」
「これからは…手加減しません。誰にも渡すつもりはありませんから」
ふと気付くと、父上が私の顔をジッと見ていた。
「お前、いつからそんな顔をするようになった…?…いや…自分が感情豊かになって変わった自覚はあるのか?」
「…最近、従者にも言われました。それで…イシスの側にいると、いろんな感情が自分から溢れていることに…気付きました」
「そうか。私は今のフェルナンドが好きだぞ。イシスにもそう思って貰えるように努力しろ。大事なら、あの娘は手放すな」
「そうよ!しっかりね、フェルナンド」
なるほど、お2人もイシスが好きなのだ。
結婚したら…取られないようにしないとな。
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母上が執務室を出た後、父上からはまだ話があると引き止められた。
「お前からの話は十分に聞いた。私たちはイシスとの結婚を反対しない。父としては…以上だ」
「は…はい、父上」
「次は…こちらからの話だ。よく聞け、フェルナンド。
ガーラント辺境伯から、お前を婿養子に欲しいとの便りが届いた」
「……は?……」
たった今、イシスとの結婚の許可を得たところだというのに…何で…。
「まぁ、実は他にも伯爵家などから打診があった…。モテる男は辛いな、フェルナンド」
「ち…父上…?」
「他のところに関しては無視していい。だが、ガーラント辺境伯の件は…お前には悪いが…無視できん」
ガーラント辺境伯の領地は、帝国の平和を守る砦として重要な地域。
魔物の棲む森に接した領地を長年管理し、飛龍の侵入を防ぐ巨大な討伐施設と多くの優秀な魔術師がいることで有名だ。
ドミニク・ガーラント辺境伯は、屈強な戦士という表現が相応しい。
過去に1度だけ、闘技場で手合わせしたことがある…魔術で上回っても、剣術では敵わないといった感じだった。
長身でバランスのとれた体躯は、男の私から見ても羨ましいくらいに戦士としての適性が高い。
“最強戦士”と誰もが彼を称賛した。
確か、愛妻家で…奥方が儚くなってからも、後添えは拒否していたと聞いたような。
子供は…男女1人ずつだったか…?
「とにかく、手紙を読め。話はそれからだ」
「…分かりました…」




