28話
「えっと…そう誰かに表現されたことは…過去にはございませんわね」
外出時は魔術で顔を変えたりしていましたし。
「それはおかしいですわ。この際ですから…私から申し上げておきましょう」
やだ大変…タチアナ様が秀才モードに入ってしまわれた。
「イシス様のお顔は大変整っていらっしゃるわ。艶めく黒髪と金色の大きな瞳との相性は抜群。
透けるような白い肌とほんのりピンクに染まった頬も、小さなプルンとした唇も、細身なスタイルも、どこにも不具合がございません!
それに加えて、品行方正。あなたは女神のような方ですわ!
パーティー会場で殿方の視線を独り占めしていたのは、誰よりも美しく輝いていたイシス様でしたのよ?」
え?…何…?独り占め?…め…女神?!…それはいくら何でも褒め過ぎでは?
「何の講義をしているのかと思ったぞ、タチアナ嬢」
「タチアナ嬢、あなたとは気が合いそうですね」
「殿下、フェルナンド様。私は思ったままをイシス様に申し上げただけですわよ?」
気付けば、部屋の入口には美形男子が2人。
クリストファー殿下が苦笑いしていらっしゃる…ものっ凄く恥ずかしい…。
「…タチアナ様ったら…。そこまで褒めていただく必要はございませんわ…」
タチアナ様は言い切ってスッキリ!
…みたいなお顔をされていますが、私は真っ赤になっておりますわよ!
フェルナンド様が後ろからふわりと私の肩を抱き、髪を手に取って口づける。
「イシスが美しいから周りが見惚れてしまうんだよ。タチアナ嬢がそう言っていただろう?事実だから…」
「もう、フェルナンド様まで!」
「待て待て、この触れ合いが通常モードなのか?びっくりだよな…タチアナ嬢」
「私も、先ほどイシス様の鈍さに驚いておりましたの。何が原因か逆に気になりますわ」
「…うん、それは…まぁ、それもそうだが…。
フェルナンド、お前はもう少し周りの目を気にしろ」
「イシスが可愛いので無理です」
フェルナンド様のおかしな発言で、タチアナ様に続いて、いつも笑顔を絶やさないクリストファー殿下まで真顔になってしまったわ。
「タチアナ嬢、こうなったら…イシス嬢だけでも何とかしようではないか」
「殿下、イシス様こそ難攻不落…ということにはなりませんか?」
「あぁ!そうなのか?そうかもしれない」
「タチアナ嬢、本当に私と気が合うな」
よく分からないけれど…私、悪口を言われてるのかな?
今日は私に“お礼をする”ってお話ではなかったの?お貴族様の“お礼”って…怖いのね。
でも、この後…私はタチアナ様の言っていたことが本当だったのだ…と思い知る。
──────────
「これは予想以上だ」
侯爵様の執務室の机は、たくさんの釣書や手紙で埋まっていた…。
「イシス、婚約の打診がこれだけある。残りは茶会やパーティーへの招待状だ。しかもこれでまだたったの2日分。
今日も明日からも子爵家にはまだまだ届くだろう」
侯爵様とアデリーナ様が疲れた目をしていた。
分家である子爵家から届けられた私宛の書類。放置は出来ないため、お2人で一度全て目を通してくださったとのこと。
「わ…私はどうすれば…」
パーティーに出ただけで…こんなことになってしまうものなの?
「皇族主催のパーティーに参加する高位貴族ならば…子爵令嬢をそこまで気には止めないだろうと…。
私が甘かったのかもしれん」
「あなた、イシスを社交界デビューさせたのですから…遅かれ早かれこうなることは分かっていましたわ。
かなり早かった…というだけでしょう?
フェルナンドが側にいましたから、うちとの繋がりが欲しい高位貴族からは狙われて当然なのよ」
お2人のお顔を見るのが…辛くなってきました。




