閑話(クリストファーSide)
※こちらの閑話が抜けておりました。
大変申し訳ございません!(11/26修正)
婚約者選びから何事もなく1年が過ぎた。
3ヶ月後には、タチアナ嬢と正式な婚約式を行う。
婚約披露パーティーには、私の側近たちも賓客として招待される。
基本的に、皇族主催のパーティーでは参加者が伯爵家以上の高位貴族となっているが、男性のパートナーとなる女性の家名は特に問わない。
ここ半月、婚約式や披露パーティーの準備が忙しく…私もタチアナ嬢も疲れが出始めていた。
思い付きで『街へ出かけたい!』と申し出たところ、意外にも許しが出た。
どうやら、フェルナンドが口添えしてくれたようだ。
そのかわり、フェルナンドの身内の子爵令嬢を連れて行くことを許可するよう詰め寄られた。
タチアナ嬢と歳が近く…街にも詳しい令嬢らしいから、まぁいいだろう。
─まぁいいだろう…じゃあなかった─
フェルナンドが連れてきたイシス嬢は、今までに私が出会ったことのないタイプの令嬢だった。
若々しく可愛いのに…どこか妖艶で…仕草の一つひとつが美しく、周りの者を惹きつける。
こんな令嬢が今までどこに隠れていた?
色白で華奢な身体は、女性らしい丸みのあるスタイルをしたタチアナ嬢と比べると、それほど魅力があるようには思えないのに…
なぜだろうか?
つい目が向いてしまうし、大きな金色の瞳に見つめられると吸い込まれてしまいそうになる。
私だけではない。
護衛の騎士たちは全員、イシス嬢を見てはボーッとして…顔を赤らめていた。
さらにフェルナンドの態度にも驚く。
“フェル兄様”と呼ばれて、うれしそうに目を細めるフェルナンド…
一体お前は誰だ…?
女性と接している姿を過去に見たことはなかったが、イシス嬢の腰を優しく抱き寄せ、髪に口づけ、手を握り、耳元で囁く…
もうやりたい放題じゃないか。
見ているこっちが照れるくらい、男の色気がダダ漏れで凄かったぞ。普通の令嬢なら間違いなく気絶しているな。
イシス嬢は毎日お前にあんなことをされているのか?
あれは慣れなのか?
タチアナ嬢だって目のやり場に困っていたし、同僚の騎士たちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたぞ?
気付いていたか?
──────────
幸い、女性2人は気が合うようで…仲良くお喋りを楽しんでいるみたいだった。
途中、串焼きという美味そうな肉をタチアナ嬢が持ってきてくれた。
しかし、毒見なしに食べ物を口にできない私は一瞬戸惑った。
護衛の誰かに毒見をさせてから、私が食べれば済む話ではある…タチアナ嬢もそこは分かっているのだろう、早く早くと急かすことはしない。
フェルナンドも分かっているはず。
それなのに…平然と『食べてみましょう』って言うんだ。周りの護衛騎士たちを制してまで…。
いよいよ馬鹿になったのか?
そう思ってフェルナンドを見れば、目が問題ないと語っていた。
そうこうしているうちに、イシス嬢が串焼きをパクリと口に入れてしまった。
モグモグと咀嚼する姿が異常に可愛い。
ピリピリした空気すら和んだな。
──────────
道中、少し違和感を感じた出来事がひとつ。
馬車で目的地へ移動する度、フェルナンドが時間を取り…イシス嬢の側へ行って真剣な顔で話をしていたことだ。
その後すぐに御者へ指示を出していたところを見ると、あれは…どの道を通るか相談していたのではないだろうか?
いくら街に詳しいとはいえ…年若い令嬢に道を聞くだろうか?
最強の魔法剣士で異能力者のフェルナンドが?
さっぱり分からない。
分かったのは…あの堅物がイシス嬢に恋い焦がれていて、誰も寄せ付けないほど溺愛している…という事実だけだった。
私も婚約していなかったら…イシス嬢に恋していたかもしれない。皇族の結婚相手として子爵令嬢では無理だが、恋するのは自由だ。
婚約披露パーティーでフェルナンドのパートナーとなるのは、間違いなくイシス嬢だろう。
ワンピース姿でも十分人を魅了する令嬢が…ドレスで着飾ったらどうなることやら。
─主役の私たちより目立つ気か?─




