20話
「屋台で買い食いとか…しませんか?」
「買い食い?」
第三皇子クリストファー殿下のご婚約者様は、侯爵令嬢のタチアナ様。
まだ16歳、とっても可愛くていらっしゃる。
「はい、これが串焼き…です!」
「まぁ、大きなお肉!殿下と…フェルナンド様にも」
「えぇ、差し上げましょう」
香ばしく焼かれた串焼き肉を持って、殿下の元へとタチアナ様が急ぐ。ふふ…愛らしい。
「へぇ…これは…美味しそうだね…」
「殿下、このまま“かぶりつく”のだそうですわ。イシス様のおすすめですの!」
「イシスの?それなら…殿下、食べてみましょう」
殿下とフェルナンド様がタチアナ様から串焼きを受け取っている。
近くの護衛たち数人がザワつくのを、フェルナンド様が手で制した。
─毒見よね─
口に入れる全てのものに注意が必要だから。
皇族である殿下の御身に何かあっては困るけど、私が視たから問題はないわ…毒など一切入っていない。
「どうぞ、熱いうちに召し上がってくださいませ」
私は…いの一番に串焼きを頬張った。
─────────
ガタガタと馬車に揺られながら、ついウトウト…。
「イシス、疲れただろう?」
「少し。でも、久しぶりに街へ行けました」
「そう言ってもらえてよかった。イシスが視てくれたお陰で、危険な道も事前に避けて通れた。本当に助かったよ。
殿下もタチアナ嬢も、とても楽しかったそうだ」
「フェル兄様は?」
「…っ!…私が1番楽しかったに決まっている。イシスと一緒に初めて街へ遊びに出かけたんだからな」
『殿下には内緒だぞ』…そう言って、フェルナンド様は照れ隠しのように咳払いをした。
宝石眼の能力が落ち着いてから、フェルナンド様は私によく触れてくるようになった。
家族とは、いつも互いの存在を近くに感じているものだと…アデリーナ様やカイラ様と同じように親しく接してくれる。
抱擁したり頬や額に口づけしたり…新たな訓練じゃないかしら?と最初は戸惑いもあったけれど、今では自然に触れ合えるようになった。
私がついウトウトしてしまっていたからだろうか…?…馬車の中では向かい合わせに座ると聞いていたのに、フェルナンド様は私の腰を抱いて横にぴったりと寄り添って座っている。
正直、ちょっと窮屈です。
「フェル兄様、少し離れましょう?」
「なぜ?」
なぜ?
この狭い空間で“互いの存在を近くに”っていう…アレも…十分感じているので、もう少し離れてもいいんじゃないのかな?
「馬車では、向かい合わ…」
「イシスは、パーティーで私と踊るだろう?」
私の話を遮って、突然パーティーでのダンスのお話?
「これよりも、もっとくっついて踊るんだよ?今から慣れておいて損はない」
「そう…なの?」
「早く練習したいな。イシスは、すぐにステップを覚えてしまうんだろうね」
「フェル兄様はそんなにダンスが好きなの?知らなかったわ。じゃあ、頑張らなきゃ!」
拳をギュッと握り締めた私の姿を見て…フェルナンド様はガクッと項垂れた。
「…ダンスが好きとかじゃ…ないけどね…」
「…?…」
ん?
何か言った?




