16話
「そうか、うん。…はぁ…よかった…」
フェルナンド様が今まで見たこともないような…へニャッ…とした表情をする。
私が伯爵家へはもう戻らないと言ったから、これは…安堵の表情?なのかな?
「実は、イシスの異能力について…師匠から知らせが届いていたんだ」
「え?」
「イシスを保護したと知らせたら、この長ーい手紙がね。
内容が内容だから…イシスが邸の生活に慣れて、落ち着いてから渡そうと思っていた。
読めば分かるが…今後は、私がイシスをしっかりサポートするようにと、師匠からご指名を受けたよ」
「サポート?ですか?」
それはつまり、異能の訓練の?…昔…師匠がしてくれていたみたいに?
「とりあえず、手紙を読んでみてもいいですか?」
師匠からの手紙は、報告書みたいに分厚かった。
「…手紙…じゃないのでは…?」
「全く同感だ。見た目だけじゃなくて中身も論文みたいだからな…落ち着いてからじゃないと頭に入らないだろう?
でも、イシスにとって大事なことが書いてあるよ。読めそうか?」
「はい。帝国と近隣国の言葉は…一応…」
「…っ…え?!…は…?」
フェルナンド様がおかしな声を出した。
「ご…5カ国語…をか?」
「簡単になら、ですよ?…あ…バイセル王国の言葉ならバッチリです。直接教わりましたから」
「…待て、直接以外に教わり方があるのか?」
「えと…文字を見たり辞書や本…とか?」
「つまり…見るだけか…」
「見ないと始まりませんよ?」
フェルナンド様がバタリ!と、ソファーに倒れ込んだ。
「わあっ!お兄様、大丈夫ですか?!」
「ある意味…大丈夫じゃない…」
「えぇ?!」
「私も3カ国語くらいまでならいけるんだが。負けてるな…大負けだ。1番難しいバイセルの言葉が完璧だと?」
“どうする…常識を飛び越えてきたぞ”
“やはり、眼に何かあるな”
フェルナンド様が…ブツブツ…と、呪文のように小さな声で呟く姿に…私はドン引いた。
「て…手紙?を読もうかな…」
フェルナンド様は、しばらくそっとしておこう。
師匠の手紙には、異能について調べた結果が書き綴られていた。当たり前だけど、初めて知る事柄ばかりだった。
異能力者の眼には多種多様な能力があるらしく、オーラで本質を見抜くフェルナンド様の眼を“心眼”、今まで魔眼としていた私の左眼は…正しくは“神眼”というそうです。
「つまり、私の眼は…呪いどころか魔眼ですらなかった…ということね」
そして、私の右眼は最も稀な“宝石眼”というものではないか?と師匠はお考えのようだ。
「…宝石眼…?」
宝石眼は、古の王族が持つだとか、最強の魔物の眼だったとか言い伝えはいくつかあるらしい。要するに、異能の眼の王様みたいな存在だとか…。
いきなりこれは凄すぎない?
異能の眼の中で、瞳の色が変化するという特徴を持っているは宝石眼のみ。
だから、師匠は私の右眼を宝石眼だというのだろう。
でも、
─“宝石眼”は対、必ず両眼である ─
これは…当てはまらない。
そう思いながら手紙、いや…報告書を読み進める。
『今の左眼は、単に神眼としての能力が現れている状態に過ぎない。おそらくは、訓練によって徐々に瞳が変わっていくはずだ』
「…訓練すれば…変わる…?」
『左眼が宝石眼へと変化を遂げた時、初めて両眼揃う。イルシス、君は素晴らしい新たな能力を得ることになるだろう』
手紙の最後は、そう締めくくられていた。




