閑話(妻たちSide)
「子供たちは寝たの?」
「はい、お義母様。今はお昼寝には丁度いい気候ですわね」
「そうね。さ、あなたも少しこちらでゆっくりなさいな」
ランチェスター侯爵家の侯爵夫人アデリーナと次期侯爵夫人カイラは、とても仲がいい。
アデリーナは、ある夜会で…ドレスにワインを派手に溢して泣きわめく令嬢と、その令嬢を宥めて助けようとしているカイラを見た。
少しの粗相も許されない、厳しい周りの目がある夜のパーティーでは…簡単な人助けのように見えて、なかなかできない行動である。
カイラを気に入ったアデリーナは、息子の嫁に是非と望み…結ばれた縁であった。
「はい。…んっ、このお紅茶!美味しい!」
「リンゴのフレーバーティーよ。ほら、この前イシスちゃんとお茶しようって誘った時…カイラは来れなかったでしょう?」
「そうでしたわね。そのかわり、イシスさんとは朝食をご一緒いたしましたのよ」
淑女たちは、美味しい紅茶と菓子にほっこりとする。
「イシスちゃんのこと、どう思う?」
「そうですわね…生家でとても酷い扱いを受けていたと聞きましたから、もっと…こう…扱いの難しい少女なのかと思っておりましたわ」
「そうね、分かるわ」
「でも…とても穏やかな性格ですし、子供たちともすぐに仲良くなって…そうそう…朝食では、イシスさんの口の周りに付いてしまったジャムを、うちの子が拭き取ってあげていましたの!」
「ま、まぁっ!」
「その時のアンディの驚いた顔ったら…フフッ…可笑しくって」
「楽しい朝食だったのね。私も今度は朝食に誘ってみようかしら?」
フェルナンドに続いて、5歳の小さな男の子にまで気に入られてしまったらしい。
アデリーナは、侯爵家でイシスの取り合いが起きないようにしなければ…と、何となく思った。
「最初にイシスちゃんの細い手首を見た時…正直ゾッとしたわ。どんな暮らしをしてきたのかしら?って。
フェルほどじゃないけれど、私も心配になったわね。
それなのに、細い身体を気にする風もなく平然としているんだから…不思議な少女よねぇ」
「フェルは…時折イシスさんに熱い視線を送っていますわ。お義母様もお気付きでは?」
「えぇ。フェルからは何も聞いていないけれど、イシスちゃんを過度に可愛がってはいるわね。本当にあれは兄としてなのかしら?」
「“お兄様”と、呼ばせていますものね」
最近では、アンドリューもそう呼んで欲しそうにしているとか…していないとか…。
「しばらくは様子を見るしかなさそうね。フェルには異能があるもの…私たちとはまた違うのかもしれないわ。
そういう意味では、フェルが気に入った子は清廉潔白と太鼓判を押されたようなものね」
「本当にそうですわ。あんなに女性に優しくするフェル、私は見たことありませんもの」
今まで他人と深く触れ合ってこなかったフェルナンド。
25歳で未だ婚約者はいない。
幼少期から異能力者であることに苦しんできた姿を知る家族や周りの者たちは、フェルナンドの好きにさせている。
だから、連れて来た少女はきっと“特別”なのだと…侯爵家の者たちは皆あたたかい目で見ていた。
「イシスちゃんが食事のマナーを覚えるのは、そう時間がかからないと思うわ。
一度見たら忘れないというのかしら…とても記憶力がいいのよ」
「あ、そういえば…食事中もそうですし、私たちの動作とか…とにかくよく見ていますよね」
「本当に不思議な少女だわ。家族全員での夕食会が、もう今から待ち遠しいわね!」




