14話
「今日はどうだった?」
夕食を済ませたフェルナンド様が、私の部屋で寛いでいる。
邸へ帰ってすぐに湯浴みを済ませたのか…ほんのり柑橘系のいい香りがする。
「たくさんの服や品物を買っていただきました。アデリーナ様が選んでくださって」
「母上が?…ふーん…まぁ、母上の見立てなら間違いないだろう」
「でも、お兄様が支払いをされると聞きました…だから…ごめんなさい」
フェルナンド様が…ポカン…とする。
あれ?
「イシス…可愛い妹にプレゼントをするのは、兄の特権なんだぞ!」
「特権?」
「そう。私はイシスにいっぱい物を買ってやって、甘やかしたい。兄ならいつだってそれができるんだ。
後は、イシスの喜ぶ顔を見れたら凄くうれしいよ。お礼は…朝の『行ってらっしゃいませ』…アレで十分かな。
母上も、イシスに服を選んであげたかったんだろうな」
ええ…っ!お金が減るのにうれしいってこと?!
朝の挨拶だけで、私は“兄の特権”を使い放題なの?!
全く理解できないわ…。
なぜなせ??と、悩んでいる私の姿を見て、フェルナンド様がクックッと肩を震わせて笑う。
「イシスは、あの醜く毒気の強い輩と血が繋がっているとは思えないな。君は素直で…可愛くて…強い」
『とても好ましいよ』
フェルナンド様の口からそう聞こえた気がした…。
─チュッ─
ん?チュッ?
フェルナンド様は私の頭のてっぺんに、そっと口づけていた。
「…っ…なっ…何を!!」
「ん?妹が可愛いから。一緒に住む家族なんだから…キスくらいするよ?」
「っ!!…キッ…キ…?!」
キス?!キスって、あの口と口が合わさるヤツ?!
それに、家族?…一体いつからですか…?!
フェルナンド様は兄弟子さまであって…え?一緒に住んだら家族になる?どういうこと?
「駄目か?」
「えっ…駄目に決まってます!…わ…私との接触は、異能があるので危険ですから!」
「魔眼か……ッ……その件なのだが…」
今…チッ…て、舌打ちしませんでした?
「あっ!」
─また目薬の術が解けた!─
─────────
私は、侯爵家では目薬を朝晩使用していた。
フェルナンド様に確認したところ、侯爵様とアンドリュー様は…私が異能の魔眼を持つこと、それが呪いではないことを理解して受け入れてくださっているらしい。
詳しい能力についてまで話してはいないけれど、異能力者である私への接し方には心配りを感じる。
本当に伯爵家とは月とスッポン。
私の周りにいる使用人は2人と最低限だけど、どこで身体が接触するかは分からないため…目薬の使用は必要不可欠だった。
─────────
徐々に瞳の色が変化していく。
「はぁ…3度目ね。お兄様といると術が解けてしまうわ」
「ん?それは珍しいことなのか?」
「珍しいというか…今まではなかったかな。
まぁ…目薬を使う回数自体が少なくて…お仕事をしている時には問題がなかったというべきかも?
多分、脳への刺激が原因だわ」
「私といると…刺激的なのか?」
やだ…どうして少しニヤけた感じなの?
「お兄様は、私の生活に飛び込んできたイレギュラーな存在なんです。新たに生まれる感情や経験したことのない出来事に…脳がビックリしているんだと思います」
「伯爵家では憎しみが量産されるだけだろう?
刺激があっても、私といたほうがいいに決まっている。
…イシスの魔眼、私は好きだよ…」
「え?…何ですか…急に」
フェルナンド様、そういうところですって!私の脳を刺激するのはやめてください。
「初めて見た時に美しいなと思ったから。
今、イシスに触れると…君には私の未来が視えるんだよな?」
「えぇ。といっても、今は上手く読めないので…視えても辛いだけ。
昔は、赤眼をコントロールできるように慣らしてはいたんですよ。でも…両眼が魔眼だと分かった時にやめました」
「やめた?」
私は人差し指で…ピッ!…と左眼を差す。
「先に異能の能力が開花したのは左眼。周りが呪いと恐れたこの赤眼には“先読み”の能力がありました」
「“先読み”…他人の未来が視えて…そこから情報を読み取る能力か。正確に読み取るには訓練が必要なんだな」
「はい。訓練を続けていたら…右眼にも魔眼の特徴が現れ始めたんです。
金色の瞳がどう変わるのかは不明でしたが…赤眼よりも強い力の可能性が高かったから、能力はもう使わないほうが安全だと師匠が判断しました」
「…そうか…だから師匠は…」
師匠?師匠が何か?




