12話
アデリーナ様とカイラ様が部屋を出て行った後、私は放心状態になっていた。
「イシス…すまない。こんなはずでは…」
フェルナンド様がショボクレている。昼間はカッコよかったのに。
別荘での生活も含め、私は今まで貴族らしい扱いを受けたことがない。
伯爵家から与えられる食事はスープが全滅の時も多く…正味パンひとつ…。そんな暮らしをしていたのに、テーブルマナーを教わるなんて…不安しかない。
パンは手掴みだもの。
伯爵家に戻ることを引き止めた手前、フェルナンド様は責任を感じているのだろう。
「伯爵家に帰ろうかな」
「…っ!イシスのことは、もう母上たちに口出しはさせない。私が守るから」
え?口では負け確定じゃないですか…?
さっきのやり取りを見ただけで、99.99%無理だと分かった気がするんですけど。
でも…まぁ、いいお母様とお義姉様ですよね。
「守るって、普段お邸にはいらっしゃらないのでは?
…自分で何とかしますよ…逃げられそうにありませんし」
「…君は逞しいな…」
それ…褒めてます?貶してます?
「ところで、侯爵様にはご挨拶をしなくてもいいのでしょうか?」
「今日はゆっくり休むようにとのことだ。挨拶は明日の朝にしよう。皿洗いの仕事は休みだろう?」
「はい。次は…明後日ですね」
「今すぐ部屋に夕食を運ばせる。食事の量だが、どのくらいなら食べれそうだ…?…急な環境の変化で体調を崩しては元も子もないからな」
フェルナンド様は私の嗜好を細かくリサーチしてから、部屋を出て行った。
オーラが視えるからかもしれないけれど…気遣いのできる人だ。
侯爵家の夕食は品数が多くてびっくり!私のために、全て一口サイズに切り分けてある。
フォークで刺してポイッと口に入れるだけ…美味しい料理を堪能できて最高だった。
─────────
─翌朝─
「君が…イシス嬢だな。フェルナンドから話は聞いているよ」
「イシスでございます。ランチェスター侯爵様、お世話になります。よろしくお願いいたします」
緊張で笑顔が引きつっている自覚はある。
それでも、できる限り…にこやかに丁寧にご挨拶をしようと頑張った。
「うむ。妻が、可愛い娘ができたと話していた。仲良くしてやってくれ」
「こ…こちらこそ、仲良くしていただけましたら…うれしいです」
よし…何とか難関を乗り切った!
─コンコンッ、ガチャ─
「失礼します」
「おぉ、アンドリュー…来たか」
「はい…あぁ、イシス嬢ですね。フェルナンドの兄のアンドリューです」
はっ!忘れていましたー!フェルナンド様のお兄様。
「あ、は…はじめまして、イシスと申します。よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく」
侯爵様もアンドリュー様も美男子。奥様たちも美人。
あれ、お貴族様って美しい人ばかりなの?
やっぱり、食べてるものが違うからかな。




