11話
「イシス様、失礼いたします」
扉の外からさっきのメイド長さんの声がした。
「は…はい」
ベッドから少し身体を起こして返事をする。
メイド長さんが扉を開くと、綺麗なドレスを着た…母娘のような2人の女性が部屋へと入って来た。
え?…だ…誰かな?
「イシスさん、はじめまして。
私はアデリーナ、フェルナンドの母親よ。こちらはカイラ、フェルナンドの兄のお嫁さんよ」
「カイラです。はじめまして」
侯爵夫人と次期侯爵夫人?!
「あの…アデリーナ様、カイラ様、私はイシスと申します。今日は、フェルナンド様に…その…ご迷惑をおかけして?申し訳ございません」
もういっぱいいっぱいです。
こんな時はどうすればいいの?
「ふふっ…フェルナンドが強引に連れて来たと聞いたわ、ねぇカイラ?」
「はい、お義母様。イシスさんのことをとても心配していた様子でしたわ」
表情はにこやかだけど…これはセーフなの?
私、失礼なことしてない?お貴族様のことはよく分からない。
「…あ…あの…」
オロオロしていたら、アデリーナ様が腰を屈めてそっと私の手に触れた。
おぉっ…と!
危ない。目薬さしといてよかった…。
「…っ…これは…。イシスさん、落ち着いたらお庭で私たちとお茶会をしましょうね。甘いケーキや美味しいクッキーをご用意するわ」
「そうですわね。うちの子供たちもイシスさんに会わせたいですわ」
「あ…ありがとうご…」
─バーーーン!─
「母上!義姉上!」
フェルナンド様が叫びながら部屋へと飛び込んで来た。
ちょっと、扉が壊れますよ!
「何事ですか、フェルナンド!騒々しい!」
「イシスさんがびっくりするわよ!」
女性2人にフェルナンド様が叱られている。
「す…すみません。父上から、お2人がイシスの部屋へ行ったと聞いて…その…」
「フェルナンド…私たちがイシスさんに何かするとでも?」
「まぁ!酷いわ。ご挨拶していただけよ」
「そういうわけでは…イシスは貴族社会のことを知らないので、困っているかと」
…チラリと私を見るフェルナンド様…。
いやいやいや、絶対に私を巻き込まないでください。
「フェルナンド、確かにイシスさんは貴族の礼儀作法については知識不足でしょうね。
それでも、ご自分の言葉で精一杯のご挨拶をしてくれたわよ。
フェル…あなた…過保護になりそうね」
何だか最後の辺り…とても低いお声だったような。
「は…母上…」
アデリーナ様は顎に手を当て…少し考えるような素振りをした。
「イシスさん。私はあなたと一緒にお食事やお茶会を楽しみたいと思っているの。
せっかく同じ邸で暮らすのですから…どうかしら、食事のマナーを覚えてみない?」
「…え?…マナーですか?…」
「フェルナンドは、こう見えて皇子の側近なの。仕事でいつも留守なのよ。
だから、私やカイラと楽しくお食事したりお喋りしたり…ね?」
「いいですわね!子供たちにもマナーを学ばせようと思っていたの。イシスさん、一緒に楽しみながらやりましょう」
有無を言わさず、仕事へ行く以外の日は…侯爵家のご家族と“楽しく?”過ごすこととなりました。
やっぱり伯爵家へ帰ればよかった…かも?




