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器用(DEX)全振りの英雄伝: 機械仕掛けのフェアリーテイル  作者: Richard Roe
第四章:その名は魔王シニスタール
33/34

スタール、英雄たちと一緒の部屋で寝ることになる

 12日目~13日目。

 王国料理団ブリゲード・ド・キュイジーヌの厨房の修業は、さらに要求水準が上がってきた。

 小手先の技術は模倣できたが、例えば温野菜と冷野菜の区別も怪しいようなスタールは、基本的な知識含め、かなりみっちりと理論を詰め込まれた。

 ニンジンや緑黄色野菜は、油で炒めて加熱することでカロチンなどの栄養が吸収されやすくなる。玉ねぎなどの根菜類は熱を加えることで渋みが薄らいで甘味が増したり、味がまろやかになる。葉野菜でもブロッコリーなどは固く渋みが強いので茹でて料理する。

 ……等々。

 これは「手先の器用なお手伝いの小僧」ではなく「料理人としての知識を備えた担当者」としての指導に移行しつつあることを意味していた。

 その傍らで、工芸菓子担当のデコラテュールDécorateurの仕事のように、手先の作業が要求される料理については、いっぱしの担当者として仕事を任され始めていた。

 パスティヤージュ(砂糖、卵白、ゼラチン等をあわせて練ったもの)や雲平(白砂糖にヤマノイモなどをまぜて練ったもの)を使って、土台と大まかな形を作って細かい装飾を施す作業。

 乾燥に数日かかるので一日で完成、というわけにはいかないが、例えば透明の飴細工の塔の内側で羽ばたいている鳥のお菓子や、飴細工の網かごの中にさくらんぼを閉じ込めて粉砂糖をまぶしたものなど、意欲的な作品をいくつか作っては周囲を感心させていた。


 一方、大道芸は、このあたりからちょっとした人だかりを作るぐらいに技術が洗練されていた。

 コンタクトジャグリングのうち、指先を使ったワンボールのテクニックはかなりコツが掴めてきた。基本技は、線対称に両手を滑らかに動かすことで、一つのボールが空中に固定されて浮いているかのように見せる、というもの。

 スタールには利き手の指があまり速く動かないという難点があったものの、実はこの技は、指先を素早く動かすことよりも、指先に込めた力の軸線がずれないようにすることのほうが重要なので、要領をつかむのは早かった。

 一人(フリースタイル)蹴鞠(フットボール)は、単純な技のコンビネーションしかできなかったが、それでも確実に一歩前進した。

 例えばツイストリーラー(地面のボールを足で挟んで、その場で一回転しながら上に跳ね上げてリフティングスタート)から数回リフティングしてネックキャッチ(首でキャッチすること)にもっていくなど、見た目が派手で受けが良いコンビネーションをいくつか体得できたのだ。

 ここにコンタクトジャグリングを組み合わせて、リフティングを行う合間に一つの水晶玉をサムリフト(手に吸い付いているように見せかけて実は親指の付け根で水晶をはさんで持ちあげるだけの技)しつつ、パームやクレイドルで水晶玉を手のひらや手の甲を転がす……というだけでも、立派な見せ技になっていた。

 ボイスパーカッションは、トランペットの声真似や動物の声真似が一番子供受けがよかった。クリックロール(舌の奥の舌打ちで出す破裂音)を多用するような難しいビートパターンを繰り返すよりも、バスドラム、ハイハット、リムを多用してノリのいい16ビートをいくつか覚えるだけでもかなり受けがよかった。


(……もしかしたら、大道芸だけで食べていけるかも)


 道行く人からのおひねりがそろそろ銀貨換算で2枚(≒宿屋の2泊分の料金)を超えだしてから、スタールはそんな野暮なことをちらりと考えるのだった。




 14日目。

 模擬戦と指導稽古。

 ここにきてスタールは、とうとう大道芸を戦いに本格的に組み込み始めた。


 片手で盾を構えて、もう片手でルーンの呪文と魔力を込めた水晶玉を複数転がす。

 水晶に込めるルーンも多種多様に、防御(Eihwaz)と保護(Algiz)のルーン、停滞(Isa)のルーン、束縛(Nauthiz)のルーン、収穫(Jera)のルーン、光(Wunjo)のルーン、破壊(Hagalaz)のルーン、戦士(Teiwaz)と力(Uruz)のルーンなど、場面に応じて使い分ける。


 更に、リンキング・リングを魔法陣の代用に充てて簡易な魔術を高速で発動できるようにした。

 呪文の装飾のついた金属の輪っかを何個もつなげたりばらばらにしたりして、魔術的な意味を組み替えなおす。戦闘中の詠唱を破棄するため、簡易な魔法陣をこのリンキング・リングで代用する。むろん、魔術を使わずにフェイクで空に投げるだけでも、相手の虚を突くことができる。


 イメージする戦い方は、俊敏の英雄エスラ、あるいは魔術の英雄ミテナ。


 一撃離脱で優位を稼ぎ、飛び道具の苦無と呪符で機先を制する、俊敏の英雄の戦い方。

 その場に陣を作り、宝石に魔力を込めて宝石魔術を準備する、魔術の英雄の戦い方。

 ここに、頑強の英雄ヴェイユの盾術から学んだ体捌き、歩法、そして盾の打撃を合わせて、粘り強く戦う。


 スタールの戦い方は千変万化を極めた。

 足元に魔法陣を展開して、水晶玉を局所に配置して魔力を増幅させるかと思いきや、グラウンドムーブ(地面についたボールを扱う足技)からのクラッチ(ボールを足で挟む技)→リフトアップ(地面についたボールを浮かせる技)で手のひらにもってきて投擲武器に応用したり。

 派手な金属音と身振りで視線誘導をしながら、相手の後ろに金属リングをいくつも投げて、背後から魔術で狙い撃ったり。


 一撃の破壊力もなければ、衝撃を跳ね返す剛健さもない。

 隙を突く素早さもなければ、相手を呑みこむ魔力量もない。


 いずれにも欠けるスタールは、相手の想定の常に裏を突いて、有利な駆け引きへと引きずりこむ泥沼覚悟の戦法で勝負をした。


 攻め筋を何度も読まれたら、膂力、頑強さ、俊敏さ、魔力、いずれかで押し切られて負けてしまう。

 たとえ優位を積み重ねても、一瞬の油断で一気に戦況をひっくり返されてしまう。


 だから、相手を見る。次を想像する。

 法水写瓶。まさに水一滴もこぼさないように。


(まだまだヒラ手の勝負じゃ勝てなくとも、相手に食らいついている実感はある。何度も勝てそうなのに勝ちきれないのは、僕の油断のせいだ。僕が器用の紋様の力を活かし切れていないだけなんだ)


 機械仕掛けの宇宙、巡る世界の回転覗き絵ゾートロープ

 ありとあらゆる情報の渦の中から、世界の仕組みを解き明かすように。











 スタール

 Lv:11.23

 STR:5.31 VIT:6.97 SPD:4.36 DEX:158.86 INT:10.73


 [-]英雄の加護【器用】

 竜殺し

 王殺し

 精霊の契約者+

 殺戮者

 [-]武術

 舞踊+++

 棍棒術+++ new

 槌術++

 剣術+++ new

 槍術+++++

 盾術++++++++++ new

 馬術+++++

 投擲術+++ new

 柔術+++++ new

 格闘術(脚術++) new

 [-]生産

 清掃+++++

 研磨++++

 装飾(文字++++++ / 記号+++++ / 図形++++++)

 模倣++++++++ new

 道具作成+++ 

 罠作成+

 革細工

 彫刻

 冶金++

 料理+++++++++ new

 解剖++

 曲芸+++++ new

 歌唱++++

 演奏++++ new

 [-]特殊

 魔術言語+++++

 魔法陣構築++++++ new

 色彩感覚+++

 錬金術++

 詠唱+++ new











 ちなみに、この日から寝る場所が一緒になった。

 どうせ五人で旅に出かけたら一緒に野宿するのだから、今のうちに一緒に寝ても問題ないという理屈だった。


 合理的といえば合理的なのだが、果たして寝間着姿の少女たちと一緒に寝てもいいのだろうか。そんな抵抗を覚えるスタールだったが、「一対一で勝てる男子を警戒するような女はいない」と物凄い角度の指摘を膂力の英雄(ビルキッタ)からされてしまい、ぐうの音も出ないまま一緒の部屋で寝る運びとなった。

 自分は間違っていないと思うのだが、と思うスタールだが、口には出さなかった。


「一応言っとくと、一緒に寝る理由はあるんだぜ。各位順調に能力が伸びているから、そろそろ血の共鳴を警戒しなくても大丈夫だとヨクハ司祭から言われたんだ。むしろ、俺たちは一緒になっておくほうがいいとよ」


「……ヨクハ司祭が?」


「ああ。英雄たちの暗殺を警戒する意味もあるから、一つの部屋に固まってくれたほうが警備がしやすいとも言われた」


 そういうものなのだろうか、とスタールは首をひねった。暗殺は嫌だが、同じ部屋に固まったところで防げる話なのだろうか。

 まさか暗殺者がやってくるという宣託を遠回しに伝えてきたってことじゃないだろうな、と邪推が入ったが、さすがにいろんな人に大っぴらに聞くわけにもいかない。こういう時にククリがいれば相談できるのにな、とスタールはもやもやした気分を持て余した。


 一緒の部屋で寝る、といってもすぐに寝るわけではない。


「……猫の声真似。めおう、めおう」


「? え、ああ――めおう、めおう」


 例えばエスラからは声真似勝負を持ちかけられるようになり、たびたび動物の鳴き声のコツを教わることになった。どうやら忍術の体系の中にそういう声真似の術があるらしい。

 他にもビルキッタからは、睡眠前の柔軟体操を教わったり、二人一組で柔軟体操を行ったりした。寝たきりで体がすっかり固くなっていたスタールは「そんなんで大丈夫かよ?」と呆れ笑いされた。

 一方でヴェイユからはなぜか恋バナを持ちかけられたり、心理テストの質問をされたりした。


 とにかく、にぎやかな夜が多くなった。


 一番参ったのは、ミテナが夜に焚くお香である。防虫、精神鎮静、魔力補充の効果があるらしかったが、誰の許可を得るでもなく勝手に焚き始めるし、しかもそれが結構匂いが独特なものだから、慣れていないスタールは萎えた気分になった。他の連中はすっかり慣れているらしいが、スタールは面食らった。


(……こうやって他の人と寝るなんて、いつぶりだろうか)


 寝るときは一人。

 ワイバーンに立ち向かって大けがを負って、それからずっと修道院で過ごして、スタールは長らく一人ぼっちだった。

 自己嫌悪で眠れない日も、ただ眠るしかなかった。何となく眠りにくい日も、目を瞑って静かに過ごすしかなかった。

 どうしても眠れないときは、こっそりと修道院に備えついている礼拝堂に足を運んで、篝火に当たって身を温めながら、星と月の夜空と、ステンドグラスの英雄譚を眺めて過ごしたこともある。

 ずっと一人の夜。


 それが今、こうやってにぎやかな夜を過ごしている。


(……そうだよな、悪くないかもな。こんな生活)


 ――僕だけがよくわからない加護を押し付けられて、僕だけが膂力や頑強や俊敏や魔術の加護を生まれつき受けることができないままで、僕だけが身体に支障を抱えたままで、僕だけ、英雄の加護を持っているのに、英雄になんかなれっこないって思っていて。


 あの時と比べたら、少しは英雄らしくなっているだろうか。











 15日目~16日目。

 厨房の修業はますます忙しさを極めた。ソーシエからパティシエまで、一通りの料理人に基本的な指導を受けたスタールは、ここからさらに多くの仕事を割り振られた。

 冷凍されたカニを解凍するときは、甲羅側を下にして解凍する。解凍と同時に蟹の旨味成分が流れ出てしまうのを防ぐため。

 エビのグリルは、まず身に塩をしっかり振る。ミネラル分が多めの塩を振ると身の味がぐっと引き出される。そしてフライパンをしっかり熱してから、エビを殻側から入れる。身の方を焼くときには、ほんの少し白ワインを入れてフランベして香りづけをして、重しを上にのせること。

 バターは野菜のうまみを凝縮する効果がある。水分をゆっくり飛ばしながら火を入れていって、泡がムース状になってから野菜を炒めてソテーにすること。

 目が回るほどの多忙さ。あちこち移動する立ち作業で、なおかつ手が痛くなるほど卵白をかき混ぜたり、固い殻を叩いて割ったりと、厨房仕事は体力が必要である。戦闘訓練とは趣が異なるものの、決して肉体を休められる平和な時間ではなかった。


 一方で大道芸は、声を記録する水晶を使ってコンタクトジャグリングを行うことで、さらなるパフォーマンス性を追求した。

 サックスおよびトランペットでメインのメロディを構築。

 バスドラム・スネア・ハイハットのパーカッションで彩りをつける。

 そこに、かかとを鳴らしたり太ももを叩いたりとボディパーカッションも細かく入れて変化を加える。

 これなら、パーカッション系の音をあらかじめ録音しておいた水晶玉がどんどん鞄から出てきたときに、音が増えて観客にもわかりやすい。コンタクトジャグリングで手のひらで転がす水晶が増えたときのビジュアルのインパクトだけでなく、音楽も盛り上がるので観客の受けはとてもよくなった。




 17日目。

 模擬戦と指導稽古。




 18日目~20日目。

 料理と大道芸。




 21日目。

 模擬戦と指導稽古。




(皆ますます強くなっている。なのに、僕はずっと負け越している。僕だけが、同じ場所でじたばたもがいている感じがする)


 柔術を教わって、腰技と足技で相手の重心を崩すコツは何となくつかめてきた。

 筋トレの方法を学んで、前よりもいざという時に筋力を発揮できるようになってきた。

 詠唱魔術の理論を教わったり、魔術言語を複数種類練習して、前よりもいろんな呪文を扱えるようになってきた。

 盾術だけでなく、盾と同時に扱う武器の基本的な型を覚えて、今までの我流の武器の扱いを、より実践的な戦術へと洗練させていった。


 辛うじて勝ったことはある。泥仕合になれば、こう見えてスタールのほうが強い。

 優位を積み重ねていくも、一瞬でとたんに劣勢になるような戦い――この繰り返しで、スタールはたとえ崩れても粘り強く立て直す戦い方を学んでいた。


 だがそれは逆に、相手にも学びと発見を与えている。

 スタールの一瞬の隙を上手につく方法。じわじわと不利になる状況で相手を崩す方法。優勢になったときに勝ち切る方法。そして、そもそも泥仕合に持ち込ませないようにする試合運び。

 度重なる稽古試合で、どんどん英雄たちの戦いに雑さがなくなり、隙がなくなっている、とスタールは感じていた。


(……初見殺しの勝利だったもんな。御前試合で僕がヴェイユ、ミテナ、エスラの三人に勝てたのは、あくまで初見殺しに近い意外性で勝利をもぎ取ったようなものだ)


 ふてくされてしまいそうだ、とスタールは乾いた笑いをこぼした。


 自分だけよくわからない【器用】とかいうふざけた加護。

 だが、一度信じると決め込んだ英雄の力。


(……結果に飛びつくな。ないものねだりをするな。僕が真に打ち克つべきは、昨日までの自分なんだ)


 きちきちきち、と歯車の回る音がどこかで聞こえた気がする。

 己の中の何かを作り変えていくような、鋼鉄を鍛錬しなおすような、気の遠くなる作業をふと連想した。
















「なぁミテナ、お前、スタールのやつのことをどう思う?」


「……どう、でしょうね」


 膂力の英雄ビルキッタが、魔術の英雄ミテナに話しかける。

 その日の夜、英雄たち四人の顔つきは芳しくなかった。理由は単純だった。

 自信が揺らいでいるのだ。


「あの少年くん、多分……そうね、天才、かしら。認めたくないことですけども」


「……だよなぁ」


 ミテナの答えを聞いて、分かり切っていたことを確認したかのようにビルキッタはぼやいた。薄々気づいていた事実である。

 それは、ここにいる皆が、あの器用な少年に追い詰められつつあるということ。


「体術はおぼつかないですわ。私が覚えている最低限の護身術と大差ないぐらいでしてよ。膂力も俊敏さもそんなにないし、脅威には感じませんわ。――巧すぎる、という点以外は」


「……エスラ、てめーとんでもねーこと教えたんじゃねえだろうな。柔術ってあんなだったか? ヴェイユも、盾術ってあんなだったか? お前の受け止める、受け潰す盾術と違って、あいつのように時々逸らして流されるとドキっとすんだよな。致命的な隙ができるから本気がなかなか出せねえしよ」


 茶化すような口調でビルキッタはしゃべったが、それでも声色に深刻さは残った。話を向けられたエスラもヴェイユも、発言を控えて口を閉ざしたままだった。


 沈黙。

 続く言葉は、なかなか見つからない。


 馬鹿みたいに力強かったり、頑丈だったり、俊敏だったり、魔力が豊富なら、まだ「負け」と理解できるのだ。圧倒的に強い奴にひねりつぶされるなら、納得ができる。

 では、力強くもなく素早くもない人間に負けるのはどうか。

 圧倒的に"上手"だから仕方がない、なのか。自分が教えた(・・・・・・)技術で、より鋭い(・・)最適解を見せつけられても仕方がないのか。

 時々、全てをかなぐり捨てて力で押し切りたい衝動に駆られることがあるが――スタールの巧みすぎる戦い運びに、かなう光景がまったく思い浮かばないのはなぜなのか。


 片手と片足に不自由があると知っているのに、あれほど巧みな戦いを見せられては、何をどうすればいいのか。


「……今日、私は不覚をとられた。スタール殿と試合をしているとき、足元に転がしてあった水晶に気付かずにそれを踏んでバランスを崩してしまったのだ。瞬間、鳩尾に強烈な盾の殴打が入った。……だがしかしだ」


 ぽつり、とヴェイユが言葉を漏らした。独り言のようなしゃべり方だった。


「盾の一撃は、子供の一撃だった。ビルキッタ殿のような膂力もなければ、エスラ殿のような立て続けの猛追もない、ミテナ殿のような強烈な魔術もない、ただの一撃だ。私は頑強だから普通に耐えてしまった。そしてきっとそれが、スタール殿なのだ。絶好の瞬間にこそ歯がゆい思いをして、巧みに次を繰り出すしかないのが、彼の」


「よせよ。俺も似たようなもんだ。一発ぶちかまして不利な状況を仕切りなおしてばっかだ。気持ちの上じゃ、負けまくってらあ」


 ヴェイユの言葉を遮ったビルキッタは、そのままもう一回だんまりを決めた。

 自分が知っている技だったら、何か一つぐらいは真似できそうな気がする。気がしてしまう。同じ瞬間に、同じ立場だったなら、自分でも同じことをできたかもしれない気持ちになってしまう。


 スタールの戦い方は、想像の範疇を超えた手数の豊富さと、予断を許さない綿密さの延長線上にある。

 大道芸、魔術、体術、盾術。だがその技の連続の中には当然、そんな瞬間がある。その一瞬だけ切り出してみれば、自分でも同じことができたのではないか、と思ってしまうような瞬間が。


 自分が教えた技なのに。

 そしてそれを、自分の一撃で仕切り直しにしてしまうたびに、自分は。


(あいつ、あんだけ上手なくせに、俺より悔しそうな顔するの、やめてほしいぜ。どうにかして助けてあげたくなっちまう)


 出会って最初は、あいつが剣に選ばれるんじゃなくて自分こそが、と思っていたのに。

 いつの間にか、スタールに強くなってほしいと願う自分がいることに、ビルキッタは後になってから気づいた。気づいたが、特段その感情を否定しようとは思わなかった。


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