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暴力系ひろいん

物凄く適当です。

「だるいわー犬の散歩とかマジだるいわー日曜に早起きとかマジないわー」


「がうがうがうがう……」


 公園の入口には、某ミ○ワのような台詞をはきつつ、犬にかじられている金髪の男。



「ごめんなさいねえ、孫は朝が弱くって……」


 目の前には、和服を着た品の良いおばあさん。



「いえ、わざわざ連れてきて下さってありがとうございます」


 そしてジャージ姿の、ランニング途中のオレ。



「このメス犬いい加減にしろよ進めねえじゃねえかありがとうございます!」


「うががががががががが……」


 ずるずると引きづられているのは、とっても可愛いパピヨンのビッチ(仮名)



「前にも言ったけど、不良じゃないから安心してね? 紘一、早く来てお嬢ちゃんに挨拶しなさい」


「あ、大丈夫です。知ってますから」


 クラスメートで親友ですから。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「はい……はい……紘一くんとは仲良くしてマス」


「あらそうなの、良かったわ~。ほら、紘一は外見もそうだけど行動もその……突飛でしょう? 心配だったのよ」


「おーいアキラ、犬はがしてくれ、犬」


 コーイチを無視しつつ、おばあさんと会話。

 犬の散歩途中だがコーイチに任せて、そのまま電車に乗って出かけるとの事だ。



「でも紘一も隅に置けないわねえ、こんな可愛らしいお嬢ちゃんと既に友達だなんて。迷惑かけてないかしら?」


「そんな事ないデス。ワタシの方が色々とお世話になってマス」


「わかった、このコーヒー味のガムをくれてやる。って全部盗るなよ犬ぅ! まったくやれやれだぜ……」


 なにがやれやれだ、よれよれのTシャツ着ているくせに。

 殴りたいのを必死に我慢しつつ、いつも以上にネコをかぶっておばあちゃんと話しているのでストレスが……。

 耐えるんだ。

 もうすぐおばあちゃんは出かけるし。

 楽しそうに戯れるコーイチとビッチ(仮名)をチラ見しつつ、ひたすらおばあちゃんと世間話。

 内容は主にコーイチの愚痴。

 どれだけ心配かけてるんだこのバカは……。



「……あらもうこんな時間。じゃあ紘一、ビッチをお願いね。あとお嬢ちゃんと仲良くするのよ」


「犬! 気付いているな!? 案内してもらうぜ……自分だけ逃げようったってそうはいかねえ」


「お気をつけて」


 10分くらい経った所で、おばあちゃんは駅に向かって去って行った。

 コーイチはビッチと訳の分からない寸劇をしている。

 さーて……。



「コーイチ」


「ん? さては! 貴様も能力者か!?」


「なに変な事言ってるの」


「すまんすまん、アキラとばーちゃんが話し込んでてヒマだったから、ごっこ遊びに夢中に」


 腕に犬をぶら下げつつ、ニヘラと笑うコーイチ。

 痛くないのかな? ま、いっか。

 ……これからもっと痛くするんだし。



「おいでおいで~」


「わんっ!」


「おい犬、なんでアキラだとそんなに素直なんだ」


 いい子だなー、可愛い可愛い。

 ちょっと大人しくしててねー。



「じゃ、コーイチ」


「ん?」


「歯を食いしばれ」




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「……前にも言ったけど、グーパンチは良くないと思うんだ」


「うん、わかった!」


 パーン!


「ちょっと待てえ! 何故俺が引っ叩かれなきゃいかんのだ!? せめて理由を言え!」


「……理由?」


 ああ、確かに歯を食いしばれ、としか言ってなかったかも。

 ビッチ(仮名)を指差して答える。



「この子の名前」


「犬の名前?」


「なんでビッチなの? 意味は知ってるの? なんでこんな名前にしたの? おばあちゃんに嘘まで教えて」


 確か、英語で可愛い女の子って意味だとかふざけた事を言ってたみたいだよねえ?

 ジト目で睨んでいると、脂汗をだらだらと流し始めた。



「コーイチ、歯をくいしばれ」


「……違うんだ」


「きゃんきゃん!」


 オレの殺気に呼応するようにビッチ(仮名)がコーイチの脚を噛じり始めた。



「こんな変な名前を付けられて可哀想に……呼ぶに呼べない名前だから、おいで~とかこっちこっちとか妙に不自然な呼び方をする破目になって」


「……だから違うんだ」


「最近はビーちゃん、って呼んでいるんだ。おばあちゃんにもその方が可愛いってごまかして……それもこれも全部」


「うががががががが、がうう……」


「コーイチ! お前が悪い!!」


 アキラは拳を鍛えていないから、全力で殴りたい時は掌底がお勧めよ、と言う母さんの声が聞こえた。

 ありがとう母さん!

 くらえ!



「田 中 の せ い な ん だ !!」


 えっ?

 あ、止まらない振り抜いちゃった。

 スパーンととても良い音を立てて渾身の平手打ち(掌底打ち?)が炸裂した。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「……俺は暴力系ヒロインは認めない。いいな? わかったな?」


「よくわからないけどごめんね? で、なんで田中のせいなの?」


「軽く流しやがって……」


 まあまあと宥めつつ、水に濡らしたハンカチでホッペを拭う。

んー、我ながら見事な一撃だったかも。綺麗なもみじが出来た。



「そのハンカチ、俺があげたやつじゃねえか。……鼻水まみれにされた」


「ちゃんと洗ったって。それとも返して欲しいの? 返さないけど」


 友情の証的なハンカチに鼻水鼻水と失礼な。



「まあいい。ビッチがビッチな理由なんだけどな」


「連呼するな」


 ようやくビーちゃんで反応するようになったのに。

 ああ、腹立たしい!



「ばあちゃんがハイカラな名前が良いって言うからさ、田中に聞きに行ったのよ。中学の時な」


「ふんふん」


 田中め、中学の頃からコーイチをたぶらかしていたのか。



「ハイカラって言えば英語かフランス語だろ? 残念ながら俺はどちらもちょこっとだけ苦手でなあ」


「コーイチの英語は確かに壊滅的だったねえ」


 ローマ字でさえまともに書けなくて本当に心配だったなー。



「で、田中に聞いたのよ」


「なんて聞いたの?」


「英語で『メス犬』ってなんて言うんだ? って」


「……………………」


 雌犬。名詞。A female dog、 a bitch(←忌語)



「なんか長ったらしいのとビッチと、2つ言ってきたからビッチにしたんだけどなあははー」


「あははーじゃないっっっ!」


「がうがうがう!」


 もう一発殴りたかったけど、ビーちゃんが頭に噛じりついてるからいっか。

 それにしても田中め……。



「だから俺は悪くないです!」


「悪いよ! 頭が!」


「なんだと」


 田中は月曜日に10回は殴るとして。



「コーイチ、今から勉強だ。英語を重点的に教えるから。試験も近いし丁度いい」


「え、やだよ。犬の散歩終わったら、適当に遊びに行くんだから」


「いいから!」


 バカのくせに試験前に遊ぶだなんて。

 それになんでオレを遊びに誘わないんだ、ますます腹が立ってきた。



「ほら、さっさと立って、そして歩く!」


「待て、俺んちまで付いてくる気か?」


 なにやら慌て始めた。



「そういえばコーイチの家、まだ行ってなかったね。丁度いいや」


「それは困る! 思春期的な欲望の数々が出しっぱなしだからだ! 断固として断る!!」


「?」


 思春期的な欲望ってなんだろ? と考えていたら脱兎のごとく逃げられた。

 ……頭に犬を乗せたまま。



「あばよとっつあ~~~ん」


「うがががががががが」


 誰がとっつあんだ。

 って無駄に脚早いな、もう姿が見えない……。

 ま、いっか。

 来週からコーイチはオレと図書館で勉強だな。

 友情を深めながら学力も高められて一石二鳥かも。

 えへへへ。

 しかしコーイチのせいで、今日は犬と遊べなかったな……ちょっと残念。




 ↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓




「うお、田中どうしたんだ某パン型ヒーローみたいな顔だぞ」


「……美里さんがいきなり来てですね」


「アキラの仕業か……」


「……これはビッチの分! と3回、これはオレの分! と7回ほど平手打ちをして去って行きました」


「マジかよアキラぱねぇな……アキラの分が7回ってのが謎だが」


「……横で林田さんが、わたしもー、わたしもーって叫んでいて、とても怖かったです」


「マジかよ林田大丈夫か本当に」

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