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ノンストップはやしだ

地の文の人がお送りします。

「お前らいったい何したの?」


「ナニに近い事をしようとしたのよ。あくまで近い事よ? 未遂よ? ……とっても楽しかったわ」


「あうあう、ちょっと手が滑ったのですよ。同じく楽しかったですよ」


「そこ、無駄口叩かない。ちゃんと反省してるの?」


 とある日。とある放課後。

 人気の少なくなった教室に男女数名がなにやら集まっていますね。

 より正確に描写すると1名を除き、正座をさせられています。

 左から順に八神君、林田さん、村野さん、田中君ですね。

 正座をしていない唯一の人物は、腕組みをしながら仁王立ちして、責めるような視線を4人に送っています。



「いくら友達とはいえ、やって良い事と悪い事があると思う。と言うかアレは犯罪でしょ? あんな……あんな事を……!」


 腕組みを解いて、威嚇するように大声を出したのは晶ちゃん。

 吊り目がちな大きな瞳を潤ませ、拳をブルブル震わせています。

 良く見れば襟元は乱れて、スカートもちょっと腰からずれていますね。



「……お前ら本当に何したんだよ?」


「あらやだ女の子にそんな事言わせるの? 変態! 痴漢! 鬼畜!」


「うひひひひひひひひひひ」


 林田さんは顔を赤らめながら、八神君をdisり始めました。

 村野さんは気持ち悪い笑い声をあげています。



「……あの、ちょっと宜しいでしょうか?」


 おずおずと手をあげて発言したのは田中君ですね。



「……この二人が怒られている理由はなんとなく分かりましたが、なんで僕と八神君も正座なんですか?」


「そういやそうだな。おい、なんで俺まで床に座らされてるんだありがとうございます?」


 なんでこの男は御礼を言うんですかね?



「コーイチはオレが酷い目に合ってたのに助けなかったからだ」


「え、でも俺はさっきまで呼び出しくらっていたから、その場にいなかったんだが……スイマセンオレガワルカッタデス」


 ひと睨みされたら謝りました。



「……では僕は何故に?」


「田中はなんとなくだ!」


 理不尽ですね。

 根拠は無いのですが、女性は理屈よりも感情を優先させる傾向にあると聞きますね。特に深い意味はないです。

 わざわざ八神君と田中君を離して正座させているのも謎「近くに座らせるとコーイチが田中にたぶらかされるからだ!」ですね……って晶ちゃんも地の文の人に干渉できるのですか勘弁して下さい。



「林田さん林田さん、これ見てこれ見てですよ」


「こ、これはさっきの! 偉いわね村野さん、ちゃんと撮影してあるなんて」


 標的が八神君と田中君にいっている間に、二人はなにやら携帯の動画を見始めました。

 どんな内容か非常に気になりますね。


「あ、もう少しで美里さんが凄い可愛らしい悲鳴をあげるの! ボリューム上げて? 音量上げて? ところでこの動画、私にもちょうだい?」


「はいですよ」


 どうやら凄いシーンになるようです。

 現時点でも十分凄いんですけどね。

 お……これはまた……。

 素晴らしい。いや素晴らしい。



「だいたいコーイチはオレより田中としゃべってる時間の方が長くない? オレだって林田さんやマツリちゃんとしゃべるけど心はいつも--」


「おい、もうちょっと詰めてくれ」


「……ゴクリ」


 晶ちゃんがくどくどと続けてますが誰も聞いてません。

 得意げに目を閉じて人差し指を立てながらドヤ顔でお説教をしているのですが。

 おっと、そんな事より続きを……。



「すげーな林田、俺はお前を尊敬するぞ」


「ふふん、万雷の拍手を送ってもいいのよ?」


「……グビリ」


「ちょっと男子は見ないで下さいですよ」


 見るなと言われてもこれは。

 細かく描写するとR-15じゃ済まなくなりそうです。



「ちょっとちゃんと聞いてる? って……みんな……何を……観てるの……?」


 あ、晶ちゃんが気付いたようです。



「ここよ! ここでね! 今まで男言葉で、やめろーとかコラーッとか言っていた美里さんが……」


 固唾を飲んで見守っていると、画面から黄色い悲鳴が。


『やだ……やめっ……やだっ! いやああああああ!!』


 田中君が鼻血を出してますね、若いです。



「さすが私! グッジョブよね? GJよね? コングラッチェよね? ちょっと戻してもう一度見ましょ!!」


「ふふん、実はマツリも色々としてたのですよ?」


「……お前ら警察呼ばれても知らないからな? それはさておきありがとうございます本当にありがとうございます!」


 林田さんが大はしゃぎです。

 晶ちゃんを見ると半泣きどころかマジ泣き一歩手前ですね。

 ちなみに田中君は倒れました。

 鼻血をだくだく流しつつも幸せそうな顔です。



「ううううううう……うがーーーーっ!!!!」


 スパーン! スパーン! スパーン! ゲシッ!


 女の子とは思えない雄叫びを上げ、泣きながら晶ちゃんが全員を殴りました。

 スパーンは頭をはたく音で、ゲシッは倒れている田中君を蹴った音です。



「男らしくしなきゃいけないのにっ! こんなっ! こんな屈辱的なっ!」


「あう……ごめんなさいですよ」


「だからなんで俺まで殴る--すんませんでした」


「……………………」


 八神君と村野さんは反省したのか、しきりに謝っています。

 田中君は気絶しています。

 林田さんだけ俯いて黙りこくっていますね?



「……マツリちゃん、その動画消さないと絶交」


「えぅ……わかったですよ」


 悲しそうな顔をしながらスマホをいじり始めます。



「コーイチは罰としてオレと一緒に帰る事!」


「罰なのかそれ? 別にいいけどよ」


「ずるいですよ!」


 相変わらず八神君には甘い、というかデレてますね。友情的な意味で。



「田中は……気絶してるみたいだからいっか。林田さんは--」


 言い掛けて止まりました。

 林田さんを見ると顔を下に向けたまま、ぷるぷると震えています。



「おいおい、まさか林田が泣いているとか?」


「大丈夫ですよ? そんなに痛くなかったですよ?」


「う、うん……そこまで強く叩いたつもりは……」


 みんなして心配そうに覗きこんでます(気絶している田中君は除く)

 なんだかんだで優しいですね。

 いつまで経っても俯いたまま震えている林田さんを見て、皆口々に慰め始めました。

 晶ちゃんに至っては、ごめんねごめんねと言いながら頭を撫で始めました。


 ややあって、林田さんがガバっと顔を上げて叫びました。



「気持よかったわ!!」


 はい?

 他の人も狐につままれたような顔をしています。



「好きな人に叩かれるって気持ちいいのね!」


 えーっと……。

 どうコメントしてよいやら。



「私、サドだと思ってたけど、マゾでもいけるみたい!!」


 とんだカミングアウトですね、3人ともドン引きです。



「アキラ、お前昔から暴力は良くないって言ってたよな? 確かにその通りだったな? 暴力を振るった結果がこれだ」


「あ……うん……反省した……」


「だから俺の事を殴るのも止めような、な?」


「ちょっと違うと思うのですよ」


 ついでとばかりに、自分にも暴力を振るうなと言い含める八神君。

 ちなみに君は結構暴力を振るってますからね? 男相手だけだから良いですが。

 まあ晶ちゃんが暴力系ヒロインになられても困るので諭すのは構いません。

 誰かさんのように、地の文の人にまで攻撃してくるようになっては大変ですしね。


 そんなやりとりなど気にもせず、Mに目覚めた林田さんが叫びます。



「ねえねえ! もう一回ぶって? もっと強くしてもいいのよ? この感覚を忘れたくないの!」


 頬を赤く染めながら内股をすりすりしています。

 ちょっと色っぽいですが、どう見ても危ない人ですね。



「か、帰ろうコーイチ!」


「お、おう……林田、遠いトコへいっちまったんだな……」


「マ、マツリも帰るですよ!」


 全員、逃げ出すようにカバンを引っ掴みダッシュで教室から出て行きました(田中君を除く)



「待ってお願い……ぶって! 叩いて!! いじめてぇ!!! 美里さーん!!!!」


 廊下にまで響き渡るような大声で叫んだおかげで、翌日から変な噂が流れ、晶ちゃんがまた涙目になるのですが、それはまた別の話で……。


 ちなみに田中君は見回りの先生が来るまで目を覚ましませんでした。

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