むかしむかし 小町と小町
貴族のやしきにうまれたわたしは、たいくつしていた。
おきてからねるまで、やることは、歌集を読むことくらい。
しかるべき人のもとにとつぐのだから、何もしなくてよいと父に言われているの。
はなし相手になってくれるのは年が近い※侍女のミツだけ。
そんなわたしには楽しみがあった。
正月あけに、やしきにまよいこんできたネコとあそぶこと。
三毛がきれいで、マリをころがしてやると、よろこんでとびつくすがたがかわいらしい。
ネコは毎日ではなくて、気が向いたときふらりとあそびにくる。
ミツが「そのネコにかた入れするのはおすすめしませんわ」なんて言う。
ミツの父はわが家に仕えているおんみょうじなの。ミツもふしぎな力があって、悪いものがわかるんですって。
だからか、こんなにかわいいネコすらけいかいしてしまう。
ネコとあそぶようになった年の夏。あつい日に、ミツが削り氷を用意してくれた。
さじでよく混ぜて、ネコにもわけてあげると、うれしそうに食べる。
「そなたにもわけてあげましょう。これはとてもぜいたくなものなのですよ。ようく味わって食べなさい」
「にゃぁ」
まるでわたしの言葉をりかいしているみたい。
ネコのあたまをなでながら、かたりかける。
「なあ。いつまでもそなたと呼ぶのはよくないから、わたしの名をあげましょう。小町。母上気に入りの、歌がうまい女性の名前をたまわったのだ。わたしは貴族のくらししか知らぬ。きっと命が終わるまで。だから、小町はかわりに、やしきの外をたくさん見ておくれ。わたしも、どこまでもつづく野山をいっしょに、自由にかけまわっているような気になれるだろう?」
「にゃう」
わかった! と言っているように聞こえる。
「ミツも、これから小町がきたらきちんと小町と呼ぶのよ」
「ネコを姫さまの名で呼ぶなんて、いくら姫さまのたのみでも、おそれおおくてできませんわ」
「もう。ミツ。あたまがかたいわね」
それから数年。父が決めた相手にとつぐ日が来て、小町に会えなくなってしまった。
それでもふと小町が来てくれるのではないかと思い、にわを見るたびちがっていて落ちこむ。
あの子は今もどこかで、自由にくらしているだろうか。
そうであればいい。
小町姫は、やしきのなかで、友を思う。
小町と小町 おしまい
※侍女 姫につかえて、身のまわりのおせわをする人。今でいう、おてつだいさん。




