18 小町《こまち》の思《おも》い出《で》再来《さいらい》
数日後。
「草凪さーん、おとどけものですー!」
「はーい!! いつもありがとうございます!」
送り主はあまづらシロップのショップからだった。
片手で持てるくらいの小箱で、プチプチにくるまれている。
「わぁ! すっごくきれーい!」
ビンに入っているのは紅茶のような、とうめいかんのあるうす茶色のシロップ。
光りにかざすとキラキラする。
これが、大学で研究して作られたあまづらシロップ。
「草凪、これはなんだ。やわらかくてへんなものだ。爪がとげぬ」
小町がプチプチに飛びついてころげまわっている。
雪路もいっしょになってプチプチに食いついてひっぱり回す。
「ほら、プチプチはあとでいくらでもあげるからかき氷つくるよ!」
今日は定休日。
父さんと母さんは新メニューかいはつにいそしんでいた。
お客さんをあきさせないように、日がわりメニューを入れかえているから、休みの日だって休んでない。
「父さん、母さん。とどいたよ! かき氷作ろ!」
「おお、来たか! やろうやろう」
父さんはさっそく冷とう庫から氷を取り出し、かき氷器でガリガリと削っていく。
「平安時代は今ほどこまかく削れなかったと思うんだ。あら削りの刃を使おう」
うちのかき氷器はあら削り、ふつう、こまかい削り、雪状と四だんかいある。
あらく削った氷を鉄の器に盛りつけて、あまづらシロップをかけてスプーンでよくかきまぜる。
「小町、できたよ!」
小町はおそるおそる、かき氷にくちをつけた。
ひとみがまん丸くなる。
「うまいのう……ひめがくれたものと、よく似ておる。なつかしい。あの日の風のにおいすらもよみがえってくるようだ。ひめがくれたものとまったく同じではない。だが──そのために草凪たちは力を尽くしてくれた。……それが、なによりしあわせだ。あまくて、うまいのう。ありがとう、草凪」
小町はうれしそうにかき氷を食べる。
「よかった。小町の思い出の味を作ることができて」
私たちも、あまづらのかき氷を食べてみる。
口に入れたとたん、冷たさとやさしい甘みがふわっと広がって、思わずえがおになる。
さらりとした甘さがじんわり舌にくる。
「これが、とおい昔のお姫さまも食べていた、ぜいたくなおやつなんだね。フルーツもなにものっけてないけど、すごくおいしいなぁ」
「ああ。上品なもの、とうたわれたのもうなずける」
「ふふふ。ほんとうね。食べすぎちゃうわ」
雪路も器にはなをつっこんであじわっている。
「わるくないな」
「わがはい、もう一杯ほしい」
「冷たいの食べすぎたら、いくらあやかしでもおなかいたくなるよ小町」
でもまあ数百年ぶりなんだから、今日くらいはいいのかな。
かき氷を食べ終えてしばらく。
小町はふう、とひと息ついてシッポをゆらした。
「……さて、そろそろ帰るとするか」
私は少しさびしくなって、「そっか……」とつぶやく。
お客さんなんだもんね。
しんみりしている私に、小町はつづけた。
「と思ったが、ここはくうらぁがきいていて涼しいし、めしもうまい。──よし、わがはいは、ここに住むぞ。雪路が良いのだから、わがはいが住むのもさしつかえあるまい?」
「えっ、ちょっと」
「わがはいはネコであるぞ。どこに行こうと自由なのだ」
父さんと母さんはかおを見合わせて笑い、雪路は「めいあんだ。小町がいるなら、わしもたいくつしなくてすむ」なんて言ってくれちゃう。
こうして、小町は草凪家の新しい住人になった。
ねこまたの章 おしまい




