16 あてなるもの
「あーあ、アイスクリンはちがうのかぁ……。じゃあなんなのさー」
一人反省会をしていたら、店の方から母さんの声がした。
「マコトー。そろそろ営業はじめるから、手伝ってー」
「はぁーーーい! 雪路、小町。私はお仕事しないとだから終わるまでここで待っててね」
「ぬー。早くもどってくるのだぞマコト」
「はいはい」
エプロンをつけて、店先にのれんをかける。
「こんばんは、マコトさん。もう開いてるかな?」
「はい! いらっしゃいませ、先生!」
じょうれんである、初田先生ごふうふだ。
市内にある個人病院の院長さんで、このあたりの人はだいたい先生にお世話になっている。
すごく背が高くて、夏でも英国のジェントルマンみたいなスーツにぼうしだから、とお目でも先生だとわかる。
先生と奥さんが二人でおじぎする。
「テーブル席、空いてるからどうぞ!」
昼に比べると客足はおだやかで、店内はまだほかにお客さんはいない。
「わたしは日がわりをおねがいします」
「私、やき魚定食にする」
「はい。日がわりとやき魚、かしこまりました!」
すぐに伝票に書きつけてキッチンにわたす。
「父さん。日がわりとやき魚定食」
「お、先生と奥さんだな。いつもありがたいな」
父さんは伝票をボードにはり、フライパンをもつ。
フロアにもどると、いつの間におりてきたのか雪路と小町が先生たちの足もとでじゃれついていた。
奥さんはネコ好きらしくて、ニコニコしながら小町のあたまをなでている。
「あー! だめだよ小町! 雪路も! 二かいにもどりなさい! どうぶつだめなお客さんもいるんだから!」
「私、ワンちゃんもネコちゃんも大好きだよ。雪路ちゃんと小町ちゃんっていうのね。ここでワンちゃんとネコちゃんかいはじめたんだね」
「い、いえ、ええと………」
雪路はともかく、小町はただのお客さんだ。
うちの子じゃないと言いたいけど、ならなんで名前をつけているの? なんで店に? ということをせつめいできる気がしない。
とりあえず笑っておこう。えへへ。
「えーと、あ、白くて、冷たくて、甘いもので明治時代より前っていったら、先生たちは何を思いうかべます?」
初田先生たちにお茶を出しながらしつもんする。
「おや、しゅくだいですか?」
「え、あ、あー……そんなかんじです……。いくら考えてもわからなくて」
「中学二年生なら、国語で古典が出ますね。こたえはおそらく枕草子でしょう」
「ん……? なんで枕草子なんです?」
「あてなるもののひとつです。『削り氷に、あまづら入れて、新しき鋺に入れたる』」
「けずりひに、あまづら……かなまり? どういう意味です? わたし、古典はあんまりとくいじゃなくて」
「『上品なもの、かき氷にあまづらという木からとったシロップをかけて、金物の器に入れたもの』と訳します。平安時代にさとうなんてありませんから、はちみつや木から取れるミツがぜいたく品でした。冷とう庫がないので氷も、貴重なものです」
かき氷は、白くて、冷たくて、甘い。そして、ぜいたく。
「……もしかして、それかも! 先生、ありがとう!」
「いえいえ。しゅくだいのお手伝いができたなら何よりです」
先生と奥さんはそろって笑った。
※出典 清少納言 枕草子
あてなるもの 削り氷に甘葛入れて新しき鋺に入れたる




