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雑用を追放したら投獄されたので、時を遡ってやり直す

作者: 衣谷強

よくある追放ものの、『追放した側』にスポットを当ててみました。


【注意】

空白、改行込みで九千字超えてます。

主人公はクズです。不快な思いをするかもしれません。

また、それなりに酷い目に遭いますが、ざまぁ的には生温いと感じられるかもしれません。


それでもよろしければお楽しみください。

「……どうしてこうなった……?」


 俺は牢屋の中で、何度こう呟いただろう……。

 かつては王国最強パーティーと呼ばれた『節制の黄金』。

 盾役にして立役者の俺が魔物の攻撃を受け止める。

 魔術師のクジマが広域魔法で薙ぎ払う。

 負傷や魔力の損耗は回復師のルイヒが癒す。

 それだけで全てが上手く回ってたはずだった……!


「あんな奴、いなくたって……!」


 リブエのガキみたいな顔がチラつく度に怒りが増す!

 びくびくおどおどしてた雑魚だったはずだあいつは!

 単なる雑用係!

 細かい銭勘定とギルドとの交渉ばっかり上手くなって、お陰で『節制の黄金』なんて呼ばれる羽目になった!

 後は簡単な薬作りくらいしかできないクズ!

 なのに追放した途端にギルドのお抱え薬師になって、完全回復薬を発明……!


「それをよりによって偽善者揃いの『白金しろかねの星』に大量に渡しやがって……!」


 それで調子に乗った『白金の星』は、魔族に奪われた砦を解放し、一躍有名パーティーに……!

 なのに俺のパーティーには、リブエは完全回復薬を渡しやがらなかった!

 『節制の黄金』での下積みがあってこその成功だろうに!

 何が「契約だから渡せません」だ!

 ギルドとの契約なんかよりも俺を優先するべきだろう!?

 俺が下手したてに出てるからと調子に乗っているリブエを殴ったら、ギルドの奴らは俺の冒険者登録を取り上げやがった!

 仕方なくギルドを通さず依頼を受けたら、俺を『節制の黄金』と知らない奴が通報しやがって、いきなり牢屋行きだ!


「くそっ……! リブエさえいなければ……!」

「その通りだ」

「!?」


 な、何だ!?

 いつの間に人が!?

 ……いや、人じゃない!

 紫色の金属みたいな肌、仮面みたいな不気味なツラ、何よりこの魔力の圧……!

 こいつ、魔族……!


「ドルシ・ドーガ。貴様が追放したリブエの作る完全回復薬によって、人族は勢い付き、今や魔王様の城まで迫る勢いだ」

「そ、それが何だって言うんだよ! お、俺のせいだとでも言うのか!?」

「そうだ。貴様の元でならうだつの上がらない雑用係だったと聞いているからな」

「ぐっ……!」


 違う……!

 あいつは、リブエは何もできないクズだったんだ……!

 ギルドの奴らや『白金の星』の奴らが、リブエに贔屓をしたんだ……!


「故に責任を取ってもらう」

「ば、馬鹿野郎! 俺をどうこうしたって何にもならねぇだろう!? やるならリブエか白金の連中を……!」

「完全回復薬の製法は既にギルドに管理されている。奴らを始末したところで戦況は好転しない」

「だ、だったら俺に何したって意味は……!」

「そこで貴様には過去に飛んでもらう」

「……は?」


 過去に、飛ぶ……?


「リブエが貴様のパーティーにいた頃に飛ばす。そこで奴を始末しろ」

「なっ……!」

「そうすれば完全回復薬は世に現れず、魔族の危機も去る。貴様は自分の凋落のきっかけを潰し、やり直しができるのだ。悪い話ではないだろう?」

「へぇ……!」


 いいじゃねぇか……!

 こいつの言う通りなら、あの絶頂期からやり直せるって事だ……!

 あの頃のリブエなら殺すのなんて簡単だ。

 よーし!


「乗ったぜ。俺を過去に飛ばしな!」

「よかろう」


 魔族が俺に向かって手を伸ばす。

 その手のひらが紫色に光ったかと思ったら、視界がぐにゃりと歪んで




「……ルシさん、ドルシさん」

「んあっ!?」


 目を開くとリブエの顔!?

 ここは、馴染みの酒場……?

 俺を裏切って他所のパーティーに行ったはずのクジマとルイヒもいる……!

 ほ、本当に戻ったんだ……!


「だ、大丈夫ですか? 大事な話があるって言った途端黙っちゃったから、どうしたのかなって……」

「ん、あ、そ、そうだったか……」

「ほらドルシ。早く言ってあげなさいよぉ。大事なハ・ナ・シ」

「下手に長引かせるのは慈悲ではありませんよ?」

「お、おう」


 本当に心配そうなリブエと対照的に、ニヤニヤ笑うクジマとルイヒ。

 ……そうか、リブエに追放を言い渡したあの日に戻ったんだな。

 ここでリブエを始末すれば……!

 ……いや、まずいな。

 リブエがいくら目障りでも、理由もなく殺したら俺はお尋ね者だ。

 それに追放したから、こいつは完全回復薬を作ったんだ。

 ならこいつを追放しないで、『節制の黄金』で飼い殺しにすりゃいいんじゃねぇか!

 そうと決まれば……!


「リブエ」

「は、はい」

「これからもよろしく頼むぜ」

「え、あ、はい!」


 これでよし!


「はぁ!? 何言ってんのドルシ!」

「話が違いますわ!」


 ちっ、うるせぇな。

 俺が冒険者登録を取り上げられたらすぐに逃げた裏切り女どもが。


「あんたが『リブエは役立たずだから追い出そう』って言い出したんじゃない!」

「えっ」

「そうですわ! そうすればリブエに配分していた報酬も山分けするって仰ったではないですか!」

「そんな……!」


 くそっ!

 何でバラすんだ!

 折角上手くいきそうだったってのに!

 ……待てよ?

 こいつらよりリブエの方が俺にとって得じゃねぇか?

 冒険者資格を取られたら逃げたこいつらと、完全回復薬を作れるリブエ。

 長い目で見たらどっちが使えるかは考えるまでもねぇな!


「うるせぇ! 俺の言う事に従えねぇってんなら、お前らが出ていけ!」





「……どうしてこうなった……?」


 俺は牢屋の中で、何度こう呟いただろう……。

 かつては王国最強パーティーと呼ばれた『節制の黄金』。

 魔術師のクジマと回復師のルイヒを追い出したまでは良かったが、その後何故か『節制の黄金』への仲間募集は失敗続き。

 そして肝心のリブエは「僕にできる訳ないですよ!」と完全回復薬を作らねぇ!

 腹が立って追い出したら、一月もしないうちにギルドで完全回復薬を作りやがった!

 俺の時は手を抜いていたのかと殴ったら、捕まってまた牢屋行き……。

 何を間違えたんだ俺は……?


「ドルシ・ドーガだな」

「! お前は……!」


 かつて俺を過去に送った魔族!

 こいつが来たという事は……!


「貴様が追放したリブエの作る完全回復薬によって、人族は勢い付き、魔王様の城まで迫る勢いだ」

「そこで俺を過去に飛ばして、リブエを始末しろって言うんだろ!?」

「!?」


 驚いた態度を見せる魔族。

 やったぜ!

 まだおれは俺はやり直せる!


「……そうか、我は以前にも貴様を過去に送り、貴様は失敗したのか」

『そういう事だ。だが今度は上手くやるぜ」

「失敗したにも関わらず、何だその自信は」

「失敗したからさ。それにお前には選択肢がないだろう?」

「……そうだな」


 頷いた魔族が俺に向かって手を伸ばす。

 紫の光に視界がぐにゃりと歪んで





「……ルシさん、ドルシさん」

「んあっ!?」


 目を開くとリブエの顔……!

 ここは馴染みの酒場で、クジマとルイヒもいる……!

 よーし、今度は上手くやるぜ!


「おいリブエ!」

「は、はい!」

「役立たずなお前を追放しようって話が出た」

「えっ……」

「だが俺も鬼じゃない。お前が分前を放棄して俺達に尽くすって言うなら、今まで通り置いてやる」

「そんな……!」

「おっと、『節制の黄金』を抜けようなんて考えるなよ? もし抜けようとなんかしたら……、わかってるな?」




「……どうしてこうなった……?」


 俺は牢屋の中で、何度こう呟いただろう……。

 かつては王国最強パーティーと呼ばれた『節制の黄金』。

 リブエにただ働きさせようとしたら、近くにいた『白金の星』の奴らが文句言って来やがった!

 その上、リブエは俺のパーティーの雑用なんだから、どう扱おうが勝手だろと軽く小突いたら、顎の骨が折れる程殴られた!

 しかも俺がリブエを殴った時は冒険者資格を取り上げられたのに、何故か奴らは称賛された……!

 クジマやルイヒは俺に賛成していたはずなのに、「追い出すならともかく奴隷契約とか……」とか言って離脱しやがって……!

 だが俺の怪我を治すために、リブエが薬を作って来た!

 なのに「これでもう関わらないでください」とか言いやがったから殴ろうとしたら、金魚のフンみたいについて来ていた白金の奴らに押さえつけられた!

 挙げ句「あんたには最早殴る価値もない。リブエさんの薬が勿体無いからな」とか抜かしやがって!

 退院後リブエから完全回復薬をもらってやろうと思ったら、接近禁止だの何だのと言い、それでも押し通ろうとしたら牢屋行きだ。

 くそっ!

 途中までは良かったのに!

 ……まぁいい。

 そろそろ来る頃だ。


「ドルシ・ドーガだな」


 よし、予定通り!

 さぁ、今度こそ上手くやるぜ!




「……ルシさん、ドルシさん」

「んがっ!?」


 目を開くとリブエの顔……!

 ここは馴染みの酒場で、クジマとルイヒもいる……!


「だ、大丈夫ですか? 大事な話があるって言った途端黙っちゃったから、どうしたのかなって……」

「ん、あ、そ、そうだったか……」


 そう答えて、俺は重大な事に気がついた。

 クジマとルイヒを追放すると、パーティーが崩壊する。

 だが追放をなしにする代わりにリブエの分け前を取ろうとすると『白金の星』にぶん殴られる。

 だが追放話はほぼ決まっているから、ここで話をなかった事にすると、クジマとルイヒがキレる。

 ……あれ?

 俺はどうすればいいんだ……?


「え、あの、な……? その、このパーティーの今後の事なんだが……」

「え、そ、そんな大事な話、僕が参加してもいいんですか……?」

「あ、うん、まぁ、その……」

「あ、ありがとう、ございます……」


 怖がりながら、ちょっと嬉しそうなリブエ。

 そういやこれまで『節制の黄金』の決め事は、リブエ抜きでやってたっけ。

 初めて呼ばれた会議が、追放されるためと知らずにこいつは……。


「ほらドルシ。早く言ってあげなさいよぉ。大事なハ・ナ・シ」

「下手に長引かせるのは慈悲ではありませんよ?」

「……」


 そうだ!

 俺が知った未来をありのまま話せばいい!

 リブエが万能薬を作る事!

 その力で魔族を蹂躙できる事!

 それを聞いたらこいつらだって……!


「いいか? よく聞け! 俺は魔族の力で過去から戻って来てだな!」




「……どうしてこうなった……?」


 俺は牢屋の中で、何度こう呟いただろう……。

 魔族の名前を出した途端に、『白金の星』の奴らに取り押さえられた!

 俺が何をしたって言うんだ!

 確かに今は魔族との戦争状態だけどよ!

 名前出しただけで牢屋行きはおかしくねぇか!?

 ……まぁいい。

 どうせこの後いつものが来る。


「ドルシ・ドーガだな」


 よし、いつも通り!

 今度こそ上手くやってやる!




「……どうしてこうなった……?」


 あの後魔族の事を隠して、突然未来を見る力が身に付いたと言ったのに、誰も信じなかった。

 その上俺を『頭のおかしい奴』みたいな目で見やがって……!

 腹が立ってリブエを殴ったら。また白金の奴らが……!

 ちくしょう、次こそは……!




「……どうしてこうなった……?」


 何度やっても俺は捕まり、牢屋で魔族に過去へと飛ばされる……。

 もう何回過去に戻ったか、数えたくもなくなった……。

 俺はこのまま、永遠にこの時間を繰り返すのか……?

 リブエを追放してもしなくても破滅するこの時間を……?

 うわあああぁぁぁ!

 気が狂う!

 毎回毎回周りの奴らから、蔑んだ目で見られる屈辱!

 クジマ!

 ルイヒ!

 『白金の星』!

 ギルドの奴ら!

 そしてリブ、エ……。

 ……ん?

 リブエだけはそんな目をしてなかったような……。

 むしろ心配するような目で……。

 ……俺は何か根本的に間違っているのか……?


「ドルシ・ドーガだな」

「!」


 いつもの魔族……!

 また俺は過去に戻ってヘマをして、牢屋に送られる……!

 どうしたらいいんだ……!


「貴様が追放したリブエの作る完全回復薬によって、人族は勢い付き、魔王様の城まで迫る勢いだ」

「……あぁ、そうだ」

「? 何だ貴様、随分憔悴しているな。我の調査ではこの程度で折れるような男ではなかったはずだが……」

「ははっ……。何十回も繰り返しゃこうもなるさ……」

「……? 貴様……! まさか既に何度も過去に飛んで、その度にリブエ暗殺を失敗しているのか!?」

「……あぁ、もう数なんざ覚えちゃいないがな……」

「……何という事だ……! これでは魔王様の御身が……!」


 がっくりと膝をつく魔族。

 ……不思議だ。

 こいつの転移能力に過去に戻る力があれば、魔王がいなくなったってやっていけるだろうに……。


「……なぁ、何でここまで頑張れるんだ……? ヤバくなったら逃げりゃいいじゃねぇか……」

「……? 何を言っている? 自分の国を捨てて逃げるなどできるはずがないだろう」

「え?」

「自分が生まれ、育ち、大切な家族、友人、仲間、思い出が詰まった地……。それを奪われそうになったら守るのが当然だろう」

「……あ、あぁ、そう、だな……」


 魔族って『凶暴な化け物』って言われてきたけど、こうやって話ができるって事は、家族や仲間に対する思いがあるって事か……。


「……なぁ」

「何だ」

「お前は人と魔族のこの戦いを止めたいんだな?」

「そうだ。三代前の魔王様が始めた人間との対立は、今や百害あって一利なし。現魔王様も同様にお考えだ」

「……そうか。ならもう一回俺に賭けてみないか?」

「どういう事だ?」

「俺達冒険者は、いや、この国に生きてるほとんどの奴は、魔族を『話の通じない化け物』だと思ってる」

「……そうか。両国の断絶も長い。戦争継続のためには、そういう教育をするのも一つの手ではあるからな……」

「だが今お前と話をして思ったんだ。ちゃんと皆に話をしたら、戦争を止められるんじゃないかってな」

「……成程。では貴様をリブエ暗殺のためではなく、両国の関係改善のために、過去に飛ばせ、と?」

「あぁ!」


 それならきっと何かを変えられるはず……!




 ……どうしてこうなった……?


「おい、何を惚けている。次は魔族の社交界における礼儀作法だ」

「……いや、ちょっと、休ませて……」

「休む必要はないだろう。今貴様は魂の状態だ。食事も睡眠も休息も不要のはずだ」

「そ、そうは言ったって、こんな一気に魔族について覚えろって……」

「貴様が望んだ事だ。長期間国交のなかった国同士を結びつけるなら、両国の文化や歴史、礼儀作法について徹底的に学ぶ必要がある」

「そ、それは、そうだが……」


 だからってこんな詰め込み……!

 俺は元々勉強ってのは苦手なのに……!


「過去へと魂を飛ばす魔法の応用で、この空間にいる限り時間は進まない。我の魔力では体感で三ヶ月程しか維持できんからな。無駄にできる時間はないぞ」

「さ、三ヶ月……!?」


 死ぬ……!

 魂が死ぬ……!

 だが魔族は教えるのが好きなのか、俺の絶望に気付いた様子もなく、話を始めた。


「魔族において自ら作り上げた魔法は誇りであり、人前で褒める事は大きな賛辞だ。だが生まれつき使えるものは、人間が体型を褒められるようなものだ」

「は、はぁ……」

「親しい者からなら褒められても悪い気はしないが、初対面だとかなりの失礼に当たる。気をつける事だ」

「わ、わかった……」

「次は日常の会話で無難な話題と危険な話題についてだ」

「……はぁい……」


 それでもあの投獄され続ける人生よりはマシだ。

 俺は必死にそう考えながら、魔族の話を聞き続けた。




「……どうしてこうなった……?」


 俺は魔王城の玉座の間で震えている。

 地獄の勉強の後、過去に戻った俺は、まずリブエとクジマ、ルイヒの三人に心から謝った。

 というのも、あの魔族から勉強を受け続けた期間の後半は、俺の激昂しやすい性格とその背景について諭され続けたからだ。


『貴様は自分に自信がない。故に他人を下に見ないと落ち着かないのだ』

『何でも思い通りにしようとして、思い通りにいかないと他人を責めるのは、自分の責任から目を背け、自己否定を回避したいがためだ』

『真に強い者は、周囲の言動で芯がぶれないから、大らかに意見を受け入れられる。弱い者は芯がぶれそうで怖いから、強い言葉で意見を跳ね返そうとする』


 耳が痛い言葉だったが、考えてみると言われた通りだった……。

 気付いてから過去を振り返ると、今でも頭を抱えて転げ回りたくなる……!

 交渉に必要な能力とはいえ、魔族が丁寧に根気強く教えてくれたのは本当にありがたかった。


『……ドルシ、あんた何か変わったわね……』

『えぇ、別人のようですわ……』

『ドルシさん……! 僕、嬉しいです……!』


 クジマ、ルイヒ、そしてリブエが許してくれたところから、俺と魔族の作戦が始まった。

 まずは魔族との戦争の成り立ちを話した。

 魔族にとって必要不可欠な薬草が疫病で全滅し、人間の国に苗の融通を求めたが、人間側は利を得る機会と考えて薬にした物を高値で売りつけた。

 その上、効果の低い薄めた品を法外な値段で売りつけたりもしたそうだ。

 そのあまりの仕打ちに、魔族は薬草の苗を領土ごと奪おうと宣戦布告。

 そして奪った薬草の苗の栽培が進み、現在は安定した供給を確保できていて、最初の戦う理由はなくなったものの、敵意は収まらず散発的な戦闘が続いている事。


『……随分勝手な理屈だわ。……だけど、魔族が『知性のない野蛮な化け物』っていう話にはもっと納得いってなかったから、うん、戦いを終えられるなら手伝う』

『……元々神は隣人への愛を説いておられます。人間も魔族も手を取り合えるなら、それは神の御心に適う行いだと思いますわ』

『皆が戦わなくて幸せに暮らせるなら、僕何でもします!』


 ここまでは良かった。

 そしてリブエにギルドを、クジマに魔法学園を、ルイヒに教会を説得してもらう予定だった。

 しかし後ろで聞いてた『白金の星』達が話に入ってきて、


『俺達にも協力させてくれ!』


 とか言い出しやがった。

 そうしたら、王族に伝手つてがあるとかで、いきなり王城に行く羽目に!

 魔族との計画では、俺の役目は魔族に関する情報を知り合いから広げて、国同士の交渉の空気を作るまでだった。

 だが話が勢い良く進んだせいで、俺は魔族との交渉役に選ばれてしまった……!

 そして今、俺は一人で魔王城にいる……。

 ……これ、前みたいに魔族に魂売ったとか思われての罰じゃないよな……?


「ドルシ・ドーガ大使。魔王陛下がお見えになります」

「は、はいっ!」


 と、とにかく国王陛下からの親書を渡して、返事をもらう!

 それだけを頑張ろう!


「ティニグディ・ムーウォ陛下、ご入場」

「はっ」


 魔王が玉座に座り、側近が両脇に立つまでは、片方だけ立てた膝に両手を重ねて置いて顔を伏せる!

 教わった礼儀作法通りに……!


「……ドルシ・ドーガ殿。顔を上げられよ」

「……はっ。魔族を統べる紫紺の王に拝謁できる喜びで、我が身が打ち震えております」

「ほう……」


 魔王の目つきが変わった!

 本当は使者が一目置かれるための作法だったが、まさか自分で使う事になるとは……!


「新書は読ませていただいた。我が国も貴殿らの国との戦いを望むものではない。側近と相談の上、明日には返書をお渡しできるだろう」

「有り難き幸せに存じます。かつて我が国の王ドーリグが貴国の危機に浅ましくも利を貪ろうとした無礼、親書ごとこの身を切り捨てられても文句は言えますまい」

「……む」

「しかし陛下は一読の上ご検討いただけるとの仰せ、それだけで国民に顔向けができまする」

「……ふむ、余は貴殿をみくびっていたようだ。我が国の最高の賓客としてもてなそう。……トスネア」

「はい」


 わ!

 魔王の横に女の魔族が現れた!

 転移魔法……。あの魔族と同じだ……。


「ドルシ・ドーガ殿だ」

「はい。人間の国から和睦の大使としてお越しになった方ですわね」

「賓客としてのもてなしを頼む」

「承りました。ドルシ様、どうぞこちらへ」

「ありがとうございます。紫紺の王、失礼いたします」

「ゆるりと休まれよ」


 よおっし! 切り抜けた!

 玉座の間を出て、魔王の娘に付いて歩く。

 ……ん? この魔力の感じ……。


「ドルシ様、こちらのお部屋になります」

「ありがとう。おかげでここまで来られたよ」

「いえ、大した事はしておりません」


 大した事をしたんだよ。

 そうか、あの格好は、鎧みたいなのだったんだな。

 こうして見ると、青みがかった白い肌の色くらいしか人と変わりはないな。

 父である魔王を、そして国を想って、俺のところに来た彼女。

 俺しか覚えてない事だけど、お礼は言わないとな。


「貴女の時間を操る魔法は本当に素晴らしいです。心より感謝申し上げます」

「……え……」


 あ、あれ?

 見る見る顔が赤くなって……!?


「な、何故私の固有魔法をご存知で!? し、しかもそれを面と向かって褒めるなんて、い、一体……!?」

「あっ、し、失礼しました!」


 しまった!

 努力して身につけた魔法は誉めていいけど、生まれつきの魔法は褒めると失礼なんだった!

 って、そんなのどっちかわかんねぇよ!


「魔族の風習に詳しい方がそんな事を仰るなんて、つまりそういう事ですのね……!」

「い、いや、そのこれは……」


 ヤバい!

 魔王の娘に失礼を働いたなんてバレたら、和平の話が消し飛ぶ!


「わ、私にできる事でしたら何でもいたしますので、どうかこの失礼はお忘れいただきたい……」

「な、何でも……!? わ、わかりましたわ……。失礼いたします……」


 真っ赤な顔のまま、足早に立ち去る魔王の娘。

 ……大丈夫、だよな?

 あぁー! 時間を戻してくれー!

読了ありがとうございます。


追放とざまぁとタイムリープを混ぜてみました。

何故最後ラブコメの匂いがしたのか、これがわからない。


さて、今回名前は英語で上下逆さまです。

ドルシ=shield 盾

ドーガ=guard 守り

リブエ=every 全ての

クジマ=magic 魔法

ルイヒ=heal 癒し

トスネア=earnest 誠実

ムーウォ=warm 暖かい

ティニグディ=dignity 威厳


お楽しみいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
何というか屑が更生しようとしたら発狂するレベルの時間がかかるという事で。
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