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【22】逆行前の『ハッピーエンド』──逆行前、3年生

 逆行前の時間、メルクとレオンハルトは順調に逢瀬を重ねていた。

 それは、たぶん他の『皆』も協力してくれたからだ。

 特にカルロスは正義感が強いのか。メルクが危害を加えられるようになった『ある時』から、積極的に二人の仲を応援してくれるようになった。


「……アンジェリーナは、レオンハルト殿下には相応しくないでしょう」

「カルロス、兄のお前がそう言ってくれるか」


 すべてが予定調和。メルクの知っている通りに事態は進んでいく。


(本当に大変だったわ。もう疲れた。皆が庇ってくれなかったら、心が折れていたかもしれない……)


 意外だったのは、誰よりもアンジェリーナに怒っていたのが肉親であるカルロスだったことだ。

 シュタイゼン家側のスタンスは、彼のお陰で確定した。

 攻略対象たちは、メルクの味方についてくれた。学園教師であったニールもそうだった。


 ただ、気になるのは1点、いや一人。『天才魔法使い』のシュルク。

 彼は……イレギュラーだと、メルクは思う。


 シュルクは、生意気なショタ枠。才能に溢れていて、ヒロインを姉のように慕うキャラクターだった。

 だけど、現実の彼は特にメルクになびくことはなかった。

 メルクは、シュルクの引き籠りがちな部分を心配して、彼を外に連れ出そうとしたことがある。


 けれど、興味がなさそうに彼はメルクに応対したのだ。

 シュルクだけは、出会いのイベントもまともにこなせていない。

 基本的に彼は魔塔に在籍しているため、出会う回数自体が少ない攻略対象だ。

 ゲーム上は、そういった少ない出会いを欠かさずシュルクと会って、彼の好感度を稼ぐ。


(それに……現実で会ったシュルクって、なんだか少し、大人びていたような)


 シュルクは、メルクの三歳年下のヒーローだ。

 性格も生意気さと可愛さを兼ね備えているはずなのだが。

 現実に出会ったシュルクは、随分と大人びていたのだ。


(出会う回数が足りなかった? 別に、シュルクを攻略したいワケじゃないから……)


 元々、ゲーム上での彼のルート攻略を考えれば、レオンハルトと同時の攻略は難しい。

 シュルクを攻略するのでなければ、これは必然の事態だったのかもしれない。


 ただ、レオンハルトと結ばれるルートは成立した。

 夏の『イベント』を二人は迎え、想いを通じ合わせたのだ。


「レオンハルト様! 私、嬉しいっ」

「メルク。ああ……! 俺もだ!」


 そして、メルクの想いは通じ、祝福されて。


「……これが『聖花の魔力』」


 高等魔法。結界系のものを生成した際に、特有の花が咲く現象だ。


「私は! ……私は『メルク・アルストロメリア』です……!」


 感極まって、皆の前で、人が見守る前で、メルクはそう宣言した。

 今のベルツーリ王家、レオンハルトの両親もまたメルクが前王家の末裔である事を認めたという。


 そして、アンジェリーナへの断罪劇もまた、無事に終える。

 メルクの下には、レオンハルトの真実の愛と、前王家の末裔の証明が残った。


 カルロス、フリード、デニス、ニールらも彼女の味方だ。

 アンジェリーナを始めとした、メルクに危害を加える者たちから彼女を守ってくれている。

 シュルクだけは相変わらず魔塔から外には出て来ないため、あまり話した事はない。


 そうして、レオンハルトに婚約破棄されたアンジェリーナは……。


「辺境伯家へ嫁いだ、ですか? アンジェリーナ、様が?」

「……ああ。あの女は、王都からは出て行ってもらう。もう社交界に顔を見せることはないだろう」

「辺境伯家っていうのは……」

「北のバルツライン家だ。北の大森林に湧く魔獣たちから国を護ってくれている。……家の状況が状況だけに、あまり嫁ごうとする令嬢や、望む家がなくてな。当然、重要な家なのだが……」

「魔獣!」


 メルクが魔獣と接敵したことは、この世界に来てからなかった。

 存在は知っているが、やはり存在するのだと聞かされると驚いてしまう。


「あの女の嫁ぎ先を提案したのは、カルロス。お前だと聞いたが?」

「アンジェリーナには相応しい家かと思います。王都にも社交界にも居場所はない。ならば、せめて国の役に立つべきだ」

「……そうか」

「まぁ、もっと最悪な家に送りつけてやればいいとも思ったけどね!」


 デニスが、そう口を挟む。

 彼は、カルロスや、シュタイゼン家の選択に納得していないようだ。


「もっと最悪な家って? デニス」

「そりゃあ、もっと歳をくった老人の後妻だとか」

「え、それは……ちょっと可哀想だよ」

「当然の報いだろ?」

「デニス」


 カルロスが厳しい声色でデニスを窘める。


「シュタイゼンの選択に口を挟まれる筋合いはない」

「チッ……」

「ま、まぁまぁ。皆、仲良くして……」


 険悪な空気になりかけた場をメルクが収める。


(アンジェリーナは居なくなった、カルロスの家も納得している? それに処刑もされてない。結婚……望んでない相手かもしれないけど、もっと酷い罰よりは、うん)


 そして、時間は過ぎていく。

 レオンハルトやカルロスが卒業していき、メルクの立場は改善され、アンジェリーナは学園を、王都を去って。


「……うん。私、やり切ったんだよね!」


 あと気になるのはシュルクのことぐらいだけれど。

 それは、おいおい気にしていけばいいだろう。


 だから今は『物語』を、『ゲーム』をやり切った達成感をメルクは噛み締める。

 彼女はハッピーエンドに辿り着いたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんかそもそも聖花の魔力ってのが旧アルストロメリア王家の滅んだ原因なんじゃないかな?という気も。 (「正しくない心を持ったものが行使したら破滅の基となる」的なアレで)
[気になる点] 教師は攻略されちゃったんですね。シュルク気になりますね〜。どうなるのだろう!?
[良い点] 逆行前でも辺境伯と出会うことになっていて、今世逆行者どもの介入の中で今度は自分の選択で出会った メルクよりよほど運命的な絆を感じますね
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