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夢と稽古と、ますすぱあ




「またしても稽古に遅れおって、このバカモンがぁ!」


 道場内に爺さんの怒鳴り声が響き渡る。


「待てよ爺さん、俺は今朝、夢の中で闘いの糸口を得たんだ。だから・・・」


「何が夢じゃ!現実に勝る稽古があるか!いつもワケのわからぬ言い訳をしおって!そんなことで尊王攘夷の志が成ると思っておるのか!」


「俺の腕じゃ、どの道、無理だって」


 俺の言い様を聞いて、道場主である爺さんは怒鳴ることすらやめ、頭に手を当ててため息をつく。

 十数名の道場生からも失笑が起きた。


「わしのせがれ、つまりお主の親父はそれは立派な武士じゃった・・・親父の志を成そうとは思わんのか」


 俺とて、父上のことは誇りに思っている。だがその崇高な志こそが、父上を殺し、家族を悲しませる原因となったのだ。そもそも、父上は俺に対しては自分と周りの命を守ることを最優先に考えるよう、いつも言い聞かせていた。志よりも、命が大事だと。俺が思うに父上は、大切な仲間が崇高な志とやらを持ってしまったが為に死んだのだ。


「俺は自分自身と、この目に映る者を守ることが出来たら御の字だよ。なにせ弱いからな」


 爺さんは複雑な表情を浮かべ、またため息をつく。


「もうよい。稽古に加われ」


 一礼し、道場生の列に加わる。

 すると隣にいた悪友が話しかけてきた。


「よう、誰が弱いだって?」


「・・・弱いさ」

 

 そう、オレは弱い。弱いからこそ、目の前で斬り殺される父上をただ見ていることしかできなかったのだ。あの時オレは誓った。いつの日か、必ず強くなると。


「またそのようなことを・・・皆にバカにされるのが悔しくはないのか?稽古中に手抜きなどせず、見返してやればいいだろうに」


 爺さんを含め、この道場内の全ての人間は、朝廷の掲げる尊王攘夷に傾倒する志士だ。そのようなことをして皆に実力が露呈すれば、必ず生死を問う任務を頼まれる。そんなもの、やりたいヤツにやらせておけばいい。


「わかってないな。又吉またきち。これは手抜きではない。ますすぱあ、というやつだ」


「また荒唐無稽な夢の話かよ。いい加減にしないと、変人扱いされるぞ」


「手遅れだな。とうにされとる」


 くくく、と悪友と笑いあう。

 


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