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邂逅




 

 オレは心の底から安堵し、ホッと気をぬいて―――


 戦慄する。


 敵を目の前にして気を抜くという己の暴挙に、全身が総毛だつような警鐘を鳴らす。

 それはまるで、ビルの屋上から間違って空に向かって一歩あゆんでしまったかのような。

 

 それは、生きようとするオレの肉体の叫びだった。


 直後、ゾブリ。ブツリブツリと体の重要な何かが断ち切られる音。


 気が付けば死神がこちらに向けて剣を振り切っていた。


 痛みは感じなかった。


 そして、それこそ、何より恐ろしかった。 

 

 一瞬遅れて、胸の左上から右脇腹にかけて、袈裟懸けに斬られた傷口から血が噴き出す。


 「うっ、うわぁあああああ!!!」


 血だ。血だ。オレの血だ。こんなにいっぱい。死ぬ。ほんとうにしんでしまう。いやだ。こわい。死にたくない。


 「おおっ、またしても致命傷は避けたかぁ。本当にすごいなぁお前。もはや天性だなこれはぁ」


 ニタリと笑う死神。その暗い眼光。これは、これは人が人を見る目では無い。獲物をなぶり、いたぶるのを楽しんでいる。この死神はオレを許す気などない。こんなにも剣が体を切り裂き、血が吹き出しているのに致命傷じゃ無い?きっとオレをからかい、もてあそんでいるのだろう。

 

 グラリと体が揺らめき、膝をつく。もう、立っていることすら出来ない・・・

 

 視界がかすむ。


 意識が遠のく。


 周囲から音が無くなる。


 そして、どこからか、オレを呼ぶ声がする・・・ような気がした。


 

◇◆◇



「・・・いさま」


「・・・にいさま!」


「兄さま。兄さまったら!!」


 挿絵(By みてみん)


 ガクガクと肩を揺さぶられる。


 目を開けてみれば、目の前には膨れっ面。長めの八重歯が可愛い、俺の妹だ。


「待て、しずね。今、闘いの夢を見ていて、なにか掴めそうだったんだ。二度寝させてくれ」 






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