人が人を殺害する理由
「ねぇ、寝た?」
「……いえ、まだ起きてます。シャーロットさん」
もう何度、同じやり取りを繰り返しただろうか。
ベッドの中で、お互いの指先だけが触れている。
「私、悔しくて……悲しくて……でも、怖くて怖くて……どうすればいいのか分からないの」
小さな声だった。震える吐息が、夜の静寂に溶けていく。
「あんなにも大切だった人たちを、拷問されて、殺されて……あの時は、何をしてでも復讐したいと思った。でも――」
間を置き、言葉を呑むようにしてから、彼女は続けた。
「――でも、自分が助かってしまったら、もう……怖いの。自分は、そんな目に絶対遭いたくないって……思い始めてる」
俺は黙ったまま、ただその声を聞いていた。
「ねえ……怖いの」
彼女がそっと近づいてくる。湯上がりの柔らかな香りが鼻先をかすめた。
「ありがとう。助けてくれて」
シャーロットは遠慮がちに身体を寄せてくる。その動きは弱々しく、それでいてどこか艶めいていた。パジャマの上のボタンが二つほど外れていて、胸元がわずかにのぞいている。ブラは……つけていないようだった。
唇が震えていた。キスをしようと、顔をゆっくりと近づけてくる。
――けれど、どうしてだろう。
嬉しさよりも先に、胸を締めつけるような悲しさが込み上げた。
「待ってください、シャーロットさん」
「……どうして? 私、まだ何もされてない……ちゃんと、綺麗な体よ?」
彼女は微笑むが、その目から一筋の涙がこぼれた。
オレは、決断しなければならない。もはやシャーロットとソアラを救うには、これしかない。
「いえ、お礼を貰うにはまだ、早いですよ」
「……どういうこと?」
「あなたはあの時、オレに言った。お礼になんでもするから、お父様とお母様を殺したヤツを殺して、と。だから、お礼は―――」
そう。
まだ、早い――。




