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今は、ぬくもりを




 倒れた私兵から鍵を奪い取り、シャーロットの枷を外す。


 俺は彼女の肩を抱きかかえ、足を引きずるようにして地下牢の出口を目指した。

 見張りの話によれば、ソアラやシャーロットを“おもちゃ”にしようとしている拷問趣味のイカれた貴族女――通称“お嬢様”は、屋敷にいるはずだ。


 地下牢の前で待機していた私兵たちには、彼女を“お嬢様”のもとへ連れていくのだとだけ伝える。


 何か言われるかと肝を冷やしたが、幸い誰も怪しむ様子はなかった。

 そのまま地下牢を離れ、屋敷の見取り図を取り出す。見張りの男が書き込んだ警備の配置を確認し、警戒の薄いルートを選ぶ。


 ――そして俺たちは、ギリギリのところで屋敷を抜け出したのだった。



◇◆◇



 貴族の屋敷を脱出した俺たちは、ゲラルトの店舗兼自宅へ戻っていた。俺たちの話を聞いた髭オヤジは、貴族の屋敷に潜入したと知って卒倒しかけたが、憔悴しきったシャーロットの様子を見て、黙って家の中へと招き入れてくれた。


 「どうだった、ソアラ。シャーロットさんの体に、何か異常は……」


 「大丈夫だったよ、お兄ちゃん。牢屋暮らしで汚れてはいたけど、ケガはなかった」


 シャーロットが脱衣所で着替えている間に、ソアラと小声でこそこそと話す。シャーロットを風呂に入れてくれたソアラが、外傷がないことを確認してくれていた。幸い、変態貴族に何かされる前に救い出せたようだ。ただ、心の傷までは――癒せないだろう。


 それにしても、小声で話しているせいで、ソアラの顔がめっちゃ近い。やっぱり、かわいいなぁ……。


 そんなことを思っていると、寝巻き姿に着替えたシャーロットが脱衣所から出てきた。だいぶ落ち着いた様子に見える。


 「大丈夫ですか、シャーロットさん。夜も遅いので、今日はもう休みましょう」


 「……怖い。怖いわ」


 その言葉と同時に、シャーロットが駆け寄ってきて、俺に抱き着いた。


 「ちょっ、ちょっと、シャーロットさん!?」


 驚いたソアラが引き剥がそうとするが、シャーロットは俺の体にすがりついて離れない。


 「お願い。一緒に寝て……一瞬でも離れないで。お願い、怖いの」





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