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う し ろ




 シャーロットは、頭から何かを被った感触で目を覚ました。


「こ、ここは・・・?」


 やけに空気が湿っている埃っぽい空間。目の前には鉄格子。 

 鉄格子の向こうには、さっきまで一緒に酒を飲んでいた、中肉中背の男。混乱しながら、記憶の糸をたどる。どうやら自分は、薬を盛られて眠らされ、たった今、水を掛けられて起こされたというところらしい。 


「よう、目を覚ましたな。気分はどうだ?」


「っ・・・これは一体、どういうこと?」


「言っただろう?お前がソアラの代わりをやれと」


「いったい、何を言って・・・?」


「お前には詳しい話はしてなかったが、あのソアラという娘は実は、変態趣味の貴族へ売っぱらう手はずだったんだよ。手足を切り落としてダルマにし、拷問するそうだ。だが、少し時間が掛かり過ぎた。変態貴族がとりあえずはお前でいいから送ってこいと言ってる」


「はぃ・・・・?」


 シャーロットは、男がいったい何を言っているのか分からなかった。声は届いているが、脳が理解することを拒絶している。しかしそれでも少しずつその言葉はシャーロットの脳髄を犯していった。


「・・・う、嘘よ。そんな、いや。嫌よ」


「ああ、それと、アンタの両親に会わせてやると言ったよな?さっきから‥‥ずうっと、アンタの後ろにいるぜ」


「・・・え?」


 両親が、うしろに、いる?


 男の言葉に、ただならぬものを感じる。


 何の音もない。誰の気配もしない。

 なのに、寒気だけが背中を這い上がってくる。


 ――わかる。

 “そこにいる”という感覚だけが、なぜか、確信になっていた。


 男の声は、ただの言葉じゃなかった。

 現実の皮を一枚、無理やり剥がしたような、異物がにじんでいた。


 シャーロットは、心臓の音を押し殺すように息を潜める。


 

 恐る恐る、ゆっくりと――

 う し ろ を、振り返った。


 

 そこには、まるで壊れた人形のように変わり果てた、シャーロットの両親がいた。

腕も、脚も、跡形もなく──着ていた服の裂け目から、赤黒く変色した皮膚がのぞいている。

互いの肩に寄り添いながら、壁にもたれかかっていた。


 空洞の眼が、こちらをじっと──じっと、見ている。


「いっ・・・いっ・・・いやぁあああああ!!!」


 叫びながら駆け寄る。倒れ込みながら、父の体を揺さぶる。

 その体にもたれ掛っていた母親の体がゴロンと床に転がった。まるでダルマのように。


「いやぁあああああっ!こんなっ、こんなっ、いやぁああああああ!!!」


「そいつらは死ぬまでずっと、お前だけは助けてくれるように貴族に哀願してたらしいぜ。いい親を持ったねぇ。・・・ってもう聞いちゃいねえか」


 貴族の屋敷内、その一角の牢屋には、シャーロットが頭をかきむしりながら叫ぶその声が、いつまでもいつまでも響き渡っていた。






今回のシャーロットの一件、あまりに辛くて読む手が止まりかけた方もいるかもしれません。

でも──どうか、ここで閉じないでください。


これは終わりではありません。

彼女の物語は、まだ続いています。


今はただ苦しく、救いが見えないかもしれない。

でも“この先にあるもの”を知ってからでも、読むのをやめるのは遅くないはずです。


この作品を信じて、一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。



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