白の聖騎士、変態にイイ感じのセリフを言う
「レオナルド様の意向はわかりました。しかし、カウニッツさんやその配下部族の処遇に関しては私の一存では決めれないのです」
タイユフールからレオナルドの『真意』を聞かされたフローラは申し訳なさそうに答えている。
フローラがカウニッツの処遇をはっきりさせようとしなかったためにタイユフールが『真意』を説明したのだ。
しかし返ってきたのはフローラの『自分の一存では決めれない』という否定の言葉だったので今度はレオナルドがききかえす。
「どういう事でしょうか?」
南方方面はフローラ率いる第八軍団の管轄なので当然フローラの一存でカウニッツの処遇は決められるとレオナルドは思っていたがそう単純ではないらしい。
「投降した人数が多すぎますからね。それこそ帝国の一軍団並みです。それだけの兵を私の軍団で丸抱えしてしまうといろいろと問題があるのです」
確かにフローラの第八軍団が二個軍団並みの兵力を持つとなれば帝国内のパワーバランスが崩れてしまうだろう。軍団は各々で独立しているがその規模は揃えられているのだ。
「特に今の第八軍団は次の任務のためにリスオー公国の援兵を募ったばかりで、それでなくても通常よりも兵数が増えているのです。普通であれば現地徴用する権限は将軍には与えられていますが、今回のケースは本国に伺いを立てなければならないでしょう」
困ったように言うフローラだがその筋は通っていた。フローラも元リンツ公国の王女という身分や個人的な戦闘力だけで第八軍団の将軍になっているわけではないのだ。
フローラの後ろに控えている見慣れない者たちがいるが彼らが今の話に出たリスオー公国からの援兵なのだろう。しかし、属国から徴用されたにしてはかなり士気が高いように見えるのでレオナルドは疑問に思う。
「彼らがリスオー公国の援兵なのですか?」
レオナルドの問いにフローラが答える前に男たちが声を合わせて叫ぶ。
「我らはフローラ様の忠実な犬!フローラ様親衛隊リスオー支部の者なり!」
男達の勢いにレオナルドは少々面食らうが、
「元気のよい者たちですね。戦場での働きが期待できそうです」とそれなりに『イイ感じのセリフ』を言うと
「ええ。すこし元気が良すぎるくらいで・・・」
フローラも言葉を濁しながら苦笑いしている。その息の合った様子は久しぶりに会った部下と上司以上のものを感じさせたのか、忠犬たちが騒ぎ出す。
「なーにが、『元気のよい者たちですね』だ!すかしてんじゃねえぞ!」
「ふっ、しょせん貴様はフローラ様に砦に置いて行かれた者だろう。フローラ様にとっては貴様などポッと出の新入りにすぎないんだよ!調子に乗るなよ!」
「そうだ!貴様はつい最近フローラ様にお仕えしたばかりだろう!知っているぞ、白の聖騎士!」
勢い込んで言うリスオー公国の騎士たちに(あんたたちが一番の新入りでしょうが!)とフローラは思わずツッコミたかったが、それを言う前に忠犬たちがさらに言いつのる。
「貴様はまだフローラ様から『愛の躾』を受けていないだろう!フローラ様直々に『愛の躾』を受けた我々こそがフローラ様の犬にふさわしいのだ!」
「『愛の躾』?」
「ちが、違うんです!あなたたちも馬鹿な事言わないでください!」
フローラは真っ赤になって否定するが、
「『愛の躾』も知らないで我らに対抗しようとは笑止千万!」
わけのわからない事を言いながら威張るリスオー公国の騎士たちだったが、レオナルドは皆に聞こえるように大げさにため息をつくと、
「元気のよい者と言ったが、ただの犬だったか。弱い犬ほどよく吠えると言うが、まさにその通りだな」
さすがの貫禄で騎士たちを一瞥するが
(大げさにため息をつきながら『弱い犬ほどよく吠える』は使い古された定番だが一度は言ってみたいセリフだよな!)
といつものレオナルドだ。
「なに~、我らが弱いだと!」
「そうでないと言うのなら私が本当の強さを見せてやろう」
(『本当の強さを見せてやろう』・・・イイ。良すぎるセリフだ。そしてこのままこいつらボコればさらにイイ感じのセリフを言えるはずだ!)
とレオナルドは捕らぬ狸のなんとやらを考えていたが、忠犬たちの反応は思っていたものとは違った。
「バカか、貴様は!フローラ様のような美少女にボコボコにされるからいいのではないか!貴様の様な男にボコボコにされても何も嬉しくないわ!変態じゃあるまいし!」
勝ち誇った(何に勝ったかはわからないが)様に言う忠犬たちに、
「あんたたちは変態よ~!」
フローラの怒りの叫びが響き渡るのだった。
帝国・反乱部族編もあと少しです。読んでくださっている方がいるようなので頑張って書きます。ありがとうございます。




