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残念聖女とやらかし王子  作者: しゅーまつ
旅立ち

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3/6

ドール完成

「おー、王子。来たか。できとるぞ」


 王子にでもフランクに接する職人達。カシスレットもそれを咎めることはない。


「やったね! 早く見せて、見せて」


 衛兵の詰所を後にしたカシスレットは庶民街にある職人街に来ている。自分でも魔道具を作るのだが、職人の手を借りないとできないものも多いため、これまでも頻繁に職人街に来ていた。


「どうだ! いい出来だろ」


 と、職人が自慢気に見せてきたものは、等身大ドール。これはカシスレットと職人達が共同開発したものだ。


「おぉー、やっぱり皮膚が付くと、なんか生々しいな」


 完成したドールは女性型。マネキンのようなボディだが、骨格だけのときとは違い、妙に生々しく見える。


 カシスレットが、出来上がり状態を確かめるために、手足を動かしてみる。このドールの骨格は特殊金属で作られ、関節部分は丸い磁石でできており、可動域は広く、人間ではあり得ないポーズも取れる。そこに人間と同じような皮膚素材を付けたものだ。


「動かしても、皮膚が引きつるようなこともなく、いい出来だ。しかし、ずいぶんといいスタイルにしたんだな」


 職人達がこだわり抜いて作ってくれたドールは美人でスタイル抜群だった。


「あったりめぇだ。このドールはロマンだからな。俺達の夢が詰まってるってもんだ」


 職人達の欲望が詰まったドールか。そういう目的で作ってもらったんじゃないぞ。と、心の中で突っ込む。


「しかし、コイツが本当に動くようになるのか?」


「ここからは俺の腕の見せどころってやつだ。動くだけなら簡単なんだけど、人間のように自分で学んで、行動できるようになる予定だ」


「へぇ、そいつは楽しみだ。それでこのドールに何をやらせるつもりだ?」


 と、へっへっへとゲスな笑いを浮かべた職人達。


「言っとくけど、変な目的じゃないぞ。これはメイドドールだ」


「メイド? ドールなんて作らなくても、城にたくさんのメイドがいるじゃねーか」


「俺は怒らないメイドが欲しいんだよ」


「怒らない?」


「そう。夜中にお茶を淹れてくれと頼んでも嫌な顔をしたり、早く寝ろとか小言を言わないメイドが欲しいんだよ」


「そんなの、命令すりゃいいじゃねーか」


「いや、まぁ、そうなんだけどね……」


 実際にメイドが自分の前で嫌な顔をしたり、メイド長以外が小言を言ったりするわけではない。が、裏でメイドがブツブツと文句を言っているのを知ってしまったのだ。


 何も気兼ねすることなく、命令できる傀儡を作ったカシスレット。それに聞き飽きたメイド長の小言も聞きたくないのだ。


 カシスレットは職人達にジャラジャラと金貨でお支払いをする。これでもうスカンピンだ。


「で、王子さんよ。こんな話は知ってるか?」 


 と、職人達が真面目な顔でカシスレットを見る。


「何かいい話か?」


「いや、悪い話だ。窃盗団がこの国に来てるって噂だ。大教会が狙われてるって噂もあるからよ。あの聖女さんにも気をつけろと言っといてやれや」


「もう被害が出てんのか?」


 ヤーラン王国は比較的治安のいい国だ。これといった大きな事件が起こったことはない。それゆえ、警戒体制も緩い。


「いや、噂の段階だな。見知らぬやつらが、街を下見してるらしい」


 この手の話は庶民達の噂話だと侮ってはいけない。自分で自分の身を守る者達の話は貴重なのだ。


「ありがとう。気をつけるように言っとくよ」


「へへっ。ドールじゃなしに聖女さんを可愛がってやれよ」


 と、ゲスな勘違いをされたカシスレットは、ドールをおんぶして帰ることに。生のままだと死体を担いでると思われそうなので、毛布をかけて運んだ。


「重っ……」


 ドールは生身の人間より少し重いぐらいだが、力仕事をしてないカシスレットには相当(こた)える。少し歩いては休み、少し歩いては休みをしながら歩いて城に戻った。道中で、ヒソヒソ話をされていたことには気づきもせずに。


 私室に戻るとすぐに、あらかじめ作ってあった魔導回路をドールに組み込んでいく。


「よし、これでいい。無限エネルギー機関はまだ未完成だから、代わりに魔石をエネルギー源に使ってと」


 魔石をセットして、椅子に座らせたドールを起動させた。


 ウィンっ。


 微かな起動音がしてから、ドールのまぶたがピクピクと動こうとしている。


「おっ、動くぞ。お前、俺のことが分かるか?」


 カッ。


 ビクッ。


 いきなり目を見開いたドール。こうして改めて見ると、よくできているが、無表情だと不気味の谷を超えてない。


「俺はお前のご主人様だ。これから俺の命令を聞いて働くんだぞ」


「イエス、マスター」


 グラッ。


「おっと」


 と、ドールが立ち上がろうとしてよろめく。これは自立センサーの調節が必要だな


 コンコン。


 ドールが倒れないように、抱きかかえていると、扉がノックされた。


「ちょ、ちょっと待て」


 この状況はヤバい。まだドールに服を用意していないのだ。こんなところを見られたら、変な勘違いをされるに決まっている。


「殿下、お食事をお待ち……」


 「待て」と言ったのが聞こえなかったのか、メイドが晩飯を運んできた。


「失礼いたしました」


 バタン。


「あっ……」


 何も説明をさせてもらえず、メイドはすぐに出ていってしまった。


 ガショガショガショガショ。


 人間にはあり得ない関節の可動域を持つドールは、カシスレットの腕の中で気味の悪い動きをする。


「じっとしてろ」


 ガショガショガショガショ。


 「俺の命令を聞けって言ってるんだ!」


 命令してもガショガショと動くドールに大声を上げたカシスレット。


(命令を聞けだって)

(む、無理矢理ってこと?)

(えー、ココ様がいるのに?)

(やらかすけど、そんなことをしない人だと……思ってたのに)

(次は私達の番かもよ)

(いやーっ)


 女を連れ込んでると聞いて、扉の前に集まってきたメイド達は、カシスレットの「命令を聞け」と言った声が聞こえてきて、慌てて逃げていくのであった。



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