聖女と王子の出会い
「あーぁ、なんでこんな日に追い出されなきゃならないんだよ……」
今日は王都のイルミネーション点灯式の日。城から街中に続くメインストリートに、点灯を待つイルミネーションがたくさん飾られている。カシスレットは城の出口で小型トラックに荷物を載せ、それをチラッと見てブツブツと呟いていた。
「さて、行くか」
荷物を積み込み終わったカシスレットは運転席に乗り込んだ。
「ちょっとー、カッシー! どうして1人で行こうとしてんのよ」
と、アクセルを踏もうとしたときに駆け寄って来たのは婚約者のココだ。
「どうしてって、お前は追い出されてないだろ? まったく、お前のせいだってのに、俺だけ追い出されたんだからな」
「ボタン押したのカッシーじゃない」
「押したのはお前だろうがっ!」
責任のなすりつけ合いをする2人。
「ま、そんなこと、どうでもいいじゃない。私も付いてってあげる」
と、ニコッと微笑んだココが助手席に乗り込んできた。
「お前なぁ……」
と、カシスレットはぶつくさ言いながらも少し嬉しかった。1人で王都を出るのが不安だったのだ。
パパパパパパッ。
「うわーっ、きれーい!」
出発しようとすると、少し暗くなった王都にイルミネーションが灯った。
「そうだな」
このイルミネーションを開発したのはカシスレット。職人たちが量産化に成功し、年末年始に王都を色鮮やかに照らし、観光客を呼びこむお祭りにしたのだ。
「ありがとうな」
「えっ、何が?」
「なんでもないよ。さ、出発するぞ」
「いえーい、レッツラゴー!」
憂鬱なカシスレットとは対照的に元気いっぱいのココは、初めて乗る小型トラックに付いているボタンを押そうとする。
「勝手にいじるなよ」
「これはなんのボタン?」
「それは前後に付いてるウィンチのボタンだ」
「ふーん。どうしてトラックなの? 普通の車にすれば良かったじゃない」
「これから何があるか分からんだろ。道中で金も稼がないとダメだからな」
「お金持ってきてないの?」
「無くはないけど、足りなくなるかもしれないからからだ。だから、あちこち触るなって!」
あちこちをいじりたくるココに怒鳴りながら、カシスレットはそろそろとトラックを動かした。
「もっとスピード出しなさいよ」
「は、初めて運転するんだから、話しかけんな」
ノロノロ……。
「ココーっ! 待ちなさいっ!!」
「ゲッ、シスターが来た」
ノロノロと動き出したトラックを鬼の形相でシスターが追いかけてきた。
「カッシー、もっとスピード出して!」
「は、話しかけんな」
ハンドルにしがみつくような姿勢で、ノロノロと走らせるカシスレット。
「早くしないと追いつかれるのっ! もうっ!!」
ココは助手席から足を伸ばしてアクセルを踏んだ。
ウィーーーン! キュキュキュキュッ。
「うっぎゃーーっ! やめろっ、やめてくれーーっ!」
急加速する小型トラックに悲鳴をあげるカシスレット。
パンッ、バリバリバリバリバリッ。
「うわわわわわわっ!」
ココがあちこちを触ったせいで、小型トラックに付いているクレーンが伸びている。それがイルミネーションに当たって破壊しながら加速していく。それが原因で王都のイルミネーションが消えていった。
「何事じゃ?」
点灯式に参加していた王は、何か事件が発生したのかと臣下を呼んだ。
「カシスレット様が、イルミネーションを破壊したようです」
「なんじゃと? またやらかしおったのかーー!!」
こうして、カシスレットとココの旅が始まったのであった。
◆◆◆
「おぉ、さすがは殿下。素晴らしい発明でございます」
「これで、我が国のエネルギー問題も克服できるやもしれませぬ」
装置の説明をしている少年を取り囲み、豪奢な服を着た大人達はそう口々に褒め称えた。
「まだ、こんな小さな物を動かせるぐらいしか無理だけど、もっともっと大きな物を動かせるようにしていくよ」
ヤーラン王国の第一王子、カシスレットは手に持ったハンディファンを動かしながら、装置の仕組みを大人達に説明をしている。
この無限エネルギー装置の開発に成功したのは、カシスレットがわずか10歳のときだった。
◆◆◆
「こ、これはなんと……」
「学園長、これは王に報告せねばなりませんぞ」
能力鑑定を受けた少女ココ。前代未聞の能力が鑑定の機械に出ていた。
【魔力値】8250
【魔法適性】水A、風A、火A、土A、聖S、闇A
魔法適性があるものは100人に1人ほどの割合で、魔力値の平均は1000程度。そして、属性適性は1つしかないのが通常だ。まれに2つの適性を持つ者もいるが、全属性持ちに加えて、聖魔法適性がSランクなのはヤーラン王国有史で初めてのことだった。
「なに? 聖女なる者が現れただと?」
「はい、前代未聞の能力でございます。孤児院出身ではありますが、殿下のお相手にふさわしい能力の持ち主かと」
魔法学園の学園長は少女ココの能力を王家に報告した。その報告を受けた王は、ココを高位貴族の養子にしたのだった。
◆◆◆
「は、初めまして殿下。ココ・チャメルと申します」
慣れぬカーテシーで挨拶するココ。プラチナピンクのサラサラヘアーに赤い瞳、透き通るような白い肌を持つ美少女だ。
「は、初めまして。僕はカシスレット」
第一王子のカシスレットはココを見て、頬を少し赤くしながら挨拶を返した。
その後、天才王子と聖女が婚約したと、王から国中に大々的に発表されるのであった。
◆◆◆
「きゃーっ、それポンっ、ポン、ポーン」
魔法学園を首席で卒業したココは聖女となり、大教会の宿舎に住んでいた。しかし、毎夜のように宿舎を抜け出し、城の衛兵達の詰所でギャンブルに興じている。
「おー、怖ぇ怖ぇ。何待ちだそれ?」
「ふっふーん。みんな飛ばしてやるわよ」
とココは腕まくりをしながら、前の人が切る前に自分の牌をツモる。マナーなんて何のそのだ。
「ほら、お前の番だ」
と、牌が切られた。
「きゃーっ! これもポン、あれもポン、多分ポン、きっとポン♪」
歌いながら小躍りする聖女。
「はい、チョンボな」
「え? あ、あれ? どうして牌が1つ多いの?」
マナー違反を咎めない衛兵達は、こうしていつもチョンボをする聖女ココからギャンブルで勝ち続けていた。
◆◆◆
ボッカーーン。
「キャー! またカシスレット様のお部屋が爆発しましたーーっ!」
「ゲホッ、ゲホッ。おかしいなぁ、理論的には合ってるはずなんだが……」
空気中の魔素を吸収してエネルギーに変換する、無限エネルギー装置の改良実験をしているカシスレットは度々このような爆発騒ぎを起こしていた。
「カシスレット! また、やらかしたのかお前はっ!!」
そして毎度のごとく、王と王妃からこっぴどく怒られている。
「いや、理論上はこれでいけるはず……」
「その言い訳を何回聞いたと思っているのだっ! いい加減にしろっ。魔道具の研究ばかりせずに、王子としてやらねばならんことがあるだろうがっ!!」
「それは弟のヤリーテに任せ……」
「ヤリーテはまだ未成年ではないかっ!」
こってりと絞られたカシスレットは、使用人達が、毎度毎度……とぶつくさと文句を言って片付けをしてくれている部屋に戻る。
「ぼっちゃま、いい加減に……キャーっ!」
メイド長がカシスレットに小言を言おうとしたら、カサカサと素早く動く黒いヤツが足元を這っていった。
「いやーっ!」
「きゃーっ!!」
阿鼻叫喚になるカシスレットの部屋。片付けをしているメイド達も騒ぎまくりだ。
「テッテレー! こんなときはこいつの出番だ」
カシスレットは大きな蜘蛛型ロボットを出した。
「対G用秘密兵器。その名も【ショーグン】だ。こいつでGを捕まえてやる」
スササササ。
「いやーっ、きゃーっ! 気持ち悪いっ!!」
その蜘蛛型ロボットのスサササと動くリアルさに鳥肌が立つメイド達。
グシャ。
「あっ……」
メイド長のそばをスササササと動いた蜘蛛型ロボットの【ショーグン】はあっさりと踏み潰されてしまった。
「ぼっちゃま……」
リアルで気持ち悪いロボットを出したカシスレットはメイド長に睨まれる。
「はひ」
こうして、カシスレットは今日もメイド長からもこってりと怒られるのであった。
ヤーラン王国天才王子カシスレット。通称やらかし王子。そして、その婚約者の聖女ココ。人呼んで残念聖女は今日も王国を騒がせるのである。
現在、続きを書き溜めておりますので、更新は遅めになると思います。
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