第九十六話 クーデターの中心人物はその失敗後、みじめな姿になる
第一師団長のブリュネ中将は、結局、王妃殿下に渋々従い、作戦の中心を担うことになっていた。
グラスジュール殿下の耳には、確定情報ではなかったものの、王妃殿下に味方しそうだという情報は入っていた。
しかし、ブリュネ中将はそのことを表情に出すことはなく、承諾する旨の返事をしていた。
その他の第三・第四・第五師団長も承諾の返事をした。
グラスジュール殿下の耳には、この人たちは日和見で、優勢になった方につきそうだという情報が入っていた。
でもこうして威圧をしておけば、自分の味方になる可能性が強くなると思っていたのだ。
前日の時点で、グラスジュール殿下に対して忠誠を誓っていたのは第二師団長のドディネ中将だけだった。
ドディネ中将はグラスジュール殿下の訪問を受けた直後は迷っていた。
しかし、その後グラスジュール殿下に心からの忠誠を誓った。
グラスジュール殿下はドディネ中将に対して既に指示を与えていたのだけれど、この日、改めてその指示を確認した。
こうした準備をしていたグラスジュール殿下に対し、王妃殿下も前日、密かにに四人の師団長を集め、作戦を翌日に行うことを伝えた。
ブリュネ中将を含め、各師団長は戸惑っていたものの、全員承諾の返事をした。
王妃殿下は、
「もう成功間違いなしだわ」
と四人に対して笑っていた。
そして、運命の日。
近衛第一師団と、その師団長のブリュネ中将、そして、王妃殿下は、グラスジュール殿下を抑えるべく、執務室に乱入した。
執務室にいたのはグラスジュール殿下とわたし。
多勢に無勢。
わたしは王妃殿下の作戦のことをグラスジュール殿下に知らされていなかったので、生命の危機が訪れたと思った。
王妃殿下の作戦は成功するのではと思わざるをえなかった。
でもわたしは、最後まで愛しのグラスジュール殿下のそばにいることを決意した。
グラスジュール殿下は、作戦決行日こそ把握できなかったものの、その対策を立てていたので、その後は、自信満々に行動した。
その結果、近衛第一師団はグラスジュール殿下に降伏することになる。
王妃殿下のクーデターに参加した人たちは、国王陛下の名のもとに処理をされていく。
まずはクーデターの中心になった近衛第一師団。
ブリュネ中将は、近衛第一師団の師団長から師団長代理に格下げ。
階級も中将から少将に格下げ。
そして、一年の謹慎を命じられた。
この間、今回のことについて反省し、グラスジュール殿下への忠誠心を養ってもらう。
そして、一年後、グラスジュール殿下への忠誠を誓った上で、再び師団長・中将の地位に戻すことになっていた。
第一師団の指揮は、当分の間、グラスジュール殿下が執ることになる。
第一師団の兵士たちは一週間謹慎し、今回のことについての反省を行う。
反省が終わり、グラスジュール殿下への忠誠を誓った後で、原隊への復帰を許すことになった。
いずれもどちらかと言えば甘い方の処分ではあると言えるだろう。
しかし、もともと王妃殿下に命令されて、嫌々クーデターに参加したということと、グラスジュール殿下に斬りかかることはなく、すぐに降伏したことが考慮されたのが第一の理由として挙げられる。
もう一つの理由は、国王陛下・グラスジュール殿下とも、ブリュネ中将や兵士たちの能力を惜しんでいたことだ。
第一師団は、五個ある近衛師団でも一番有能な人材が配属される師団だ。
しかし、今回はクーデターに参加した為、その地位は一旦低下することになった。
今回、最初からグラスジュール殿下に忠誠を誓い、クーデターの鎮圧に貢献した近衛第二師団のリランドティーヌ中将と、第二師団の兵士たちは、ボランマクシドル王国で一番名誉のある勲章を授与された。
そして、第一師団に変わり、今後は第二師団が近衛師団の中心として位置づけられるように定められたのだ。
ドディネ中将と兵士たちは、恐縮し、さらなる忠誠をグラスジュール殿下に誓っていた。
しかし、国王陛下とグラスジュール殿下は第一師団の能力の高さを評価している。
このまま第二師団の後塵を拝したままでいるとは思っていなかった。
ただ、その能力を発揮するだけでは足りない。
グラスジュール殿下への忠誠心を高く持つことが前提となる。
そうした基盤を持った上で能力をより発揮していくことを求めた。
そして、高いレベルにおいて第二師団と競争を行い、それに打ち勝っていけば、再び近衛師団の中心に復帰できる可能性を、二人は第一師団のブリュネ少将とその兵士たちに示していた。
もちろん第二師団のドディネ中将や兵士たちにも、
「きみたちの能力、わたしに対する忠誠心をわたしは高く評価している。第一師団に負けないように」
とグラスジュール殿下は言って、士気を鼓舞していく。
第三・第四・第五師団については、今回日和見だったこと自体は、問題にすることはなかったのだけれど、第二師団とは待遇に大きな差がつくことになった。
グラスジュール殿下はこの三師団についても、自分に対する忠誠心を高めた上で、能力を高めていくことを求めた。
第一師団に対して甘い方だと思われる処分を下し、第三・第四・第五師団の対応を問題にしない代わりに、近衛師団どうしで競い合い、質を上げていくことを目指してしていたのである。
王妃殿下は近衛第二師団にとって管理下に置かれた後、国王陛下の命令で一室に幽閉されることになった。
やがて、修道院に送られ、その地で生涯を終えることになる。
王妃殿下は、国王陛下にその命令をされた後、
「なんでわたしがこんな酷い目にあわなければならないの! 国王陛下、わたしはあなたのことを愛してるの! あなたもわたしのことを愛してるんでしょ! 今までの愛の言葉は、全部嘘だったと言うの! 愛してると言うなら、わたしに権限の全部を与えなさい!」
と言って泣き叫んだそうだ。
みじめだとしかいいようがない。
国王陛下は、何も言わず、涙を流しながら見送っていた。
自分が夢中になっていた人が、このようなことになったので、悲しくて言葉が出なかったのだと思う。
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