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第九十五話 クーデター計画

 王妃殿下よりもグラスジュール殿下の方が怖く、しかも、グラスジュール殿下に自分たちの師団を指揮する権限が与えられたということで、各師団長の間では、グラスジュール殿下に従わなければならないという気持ちが、少しずつではあるが湧き出し始めていた。


 近衛第一師団のブリュネ第一師団長は、王妃殿下と一番親しかった。


 そのブリュネ中将でさえも、この影響を受けていた、


 各師団長は、表面上はそれまでと同じで、王妃殿下に忠誠を誓っていた。


 しかし、このグラスジュール殿下の訪問以降、各師団長は王妃殿下に対して少し距離を置き始めた。


 ブリュネ中将も例外ではなかった。


 王妃殿下は、その変化を感じ取り始めていた。


 そして、グラスジュール殿下を推す勢力が日毎に勢力を伸長させていることも認識していた。


 このままでは、ウスタードール殿下を王太子・後継者にすることができず、自分の権力も失われる一方だと王妃殿下は思い始めていた。


 そこで、王妃殿下は、以前より検討していた、


「ウスタードール殿下擁立計画」


 を実行に移す為、信頼し、計画を一緒に立てていた側近とともに動き始めた。


 最初は近衛師団の内第一師団を動かし、グラスジュール殿下とわたしをその管理下に置いて自由を奪う。


 わたしはグラスジュール殿下の婚約者なので、一緒に処分をされる対象になってしまうのだ。


 グラスジュール殿下とわたし両方の自由を奪うことを目標にする為、わたしたちが会う時が作戦の実行日として定められることになる。


 その後、残りの師団と一緒に王宮全体に展開し、制圧をする。


 クーデター計画だ。


 第二師団はグラスジュール殿下に忠誠を誓っているので、動かすことは断念した。


 この師団がじゃまをしてくることも予想されたのだけれど、通常、グラスジュール殿下とこの師団が駐屯している場所は離れているので、グラスジュール殿下が執務室にいるところを抑えれば、容易にこちらに降伏すると思われた。


 その後、国王陛下に対して、


「王太子・後継者はウスタードール殿下」


「王妃殿下へのすべての権限移譲」


 ということを認めさせる。


 そして、グラスジュール殿下については修道院送りとし、その婚約者だったわたしについても、フィリシャール公爵家に命じて別の修道院送りとする。


 グラスジュール殿下については、それだけではなく復権の可能性があるので、ある程度の年数が経った後、生命を奪う計画だった。


 わたしの継母を王妃殿下が招いていたのも、この根回しをする為というのが大きな理由。


 ただし、それだけではない。


 継母自体がこれを機にわたしに大打撃を与えたいと思っていて、その相談を継母の方からしていた。


 王妃殿下は、今まで貴族たちにも根回しをしていたので、多少勢力が弱まったとは言ってもウスタードール殿下を支持する貴族たちはまだまだ多い。


 王妃殿下のウスタードール殿下を擁立する動きに反発する貴族は少数にとどまるので、大勢に影響はないだろうと王妃殿下は思っていた。


 なによりも王妃殿下は自分の方が優秀だと思っていて、グラスジュール殿下がかなうわけがないと思っていた。


 そして、グラスジュール殿下はこちらの動きを何も知らないだろうと王妃殿下は思っていた。


 わがままで傲慢な態度を取っているグラスジュール殿下のような人間が、そのような細かいことを気にするはずがない。


 そう思い込んでいたのだ。


 王妃殿下としては、この作戦は絶対に成功すると思っていた。


 しかし、王妃殿下の動きをグラスジュール殿下はつかんでいた。


 今まで王妃殿下とその周囲の情報をつかむ努力をしていたのが実ったというところだ。


 ただ作戦の決行日まではわからなかった。


 王妃殿下が自分の胸にしまっていたので、誰にも伝えていなかったからだ。


 グラスジュール殿下は、作戦決行日まではわからなかったものの、結果的に王妃殿下が作戦を決行しようとしていた前日に、改めて各師団長に、


「近衛師団はわたしの指揮下にある」


 と伝えた。


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