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第九十四話 グラスジュール殿下の巻き返し

 王妃殿下の言うことを国王陛下がなんでも受け入れるようになってから、もう数年が経っている。


 止めることはできなくなっていたのだ。


 国王陛下は、腕を組んで考え込んだ後、


「わたしには説得は無理だ。王妃を抑えるのは、お前しかできない。ちょうといい機会だ。お前にこの王国政治の権限の大部分を譲ることにしよう。そうすれば、王妃の力を大幅に抑えることができる」


 と言い出した。


 グラスジュール殿下が、


「父上、それは本気でおっしゃっているのでしょうか?」


 と言うと、国王陛下は。


「お前が今まで語っていた政治方針は、すぐにでも実現に向けて動き出すべきだと思った。わたしにはできなかった、国民の為の政治。それをお前には行ってもらいたい」


 と言葉を少しつまらせながら言った。


 こうしてグラスジュール殿下は、国王陛下により改めて、


「王太子の座の保証」


「国王陛下の後継者の地位の保証」


 をされることになり、そして、


「この王国の政治権限の委譲」


 をされることになった。


 国王陛下はこの三つのことを舞踏会において宣言した。


 正式な宣言である。


 国王陛下が、グラスジュール殿下が王太子であり、自分の後継者とすることを改めて宣言したことによって、一気に風向きが変わっていく。


 そして、グラスジュール殿下は、正式に国王陛下から権限の大規模な委譲を受けた。


 戦争や予算といったような、この王国の最重要項目の最終裁可権こそ国王陛下にあるものの、それ以外の権限はグラスジュール殿下に委譲された。


 近衛師団については、王妃殿下が代理で指揮することができるようになっていたのだけれど、これもグラスジュール殿下が代理で指揮できるように変更されていた。


 ようするに国王陛下の代理としての指揮の権限が、今までの王妃殿下からグラスジュール殿下に移動したことになる。


 王妃殿下は、グラスジュール殿下を王太子・後継者にできないことと、自分からグラスジュール殿下に権限が移行することを決めたこの宣言について、舞踏会の中では反対はしなかった。


 しかし。心の中では猛烈に反発していた。


 この後、この宣言を破棄させる為、動き出すことになる。


 ただ、近衛師団の権限移譲については、特に反対はしなかった。


 この権限移譲は、形式的なものとしか思っておらず、いざという時は、自分に従うと固く信じていたからだ。


 グラスジュール殿下は、このことが決定した後、すぐに各近衛師団の師団長とそれぞれ会った。


 そして、五人の師団長それぞれに、


「これからはわたしが、そなたたち近衛師団の指揮の権限を国王陛下の代理として持つことになった。国王陛下とわたし以外の指揮には絶対に従わないように! そなたたちはこれからこの王室。そしてこの王国を支える為にわたしの下で働くのだ!」


 と強い調子で言った後、


「そなたたちには大いに期待している」


 とやさしく言った。


 これは、王妃殿下のことを念頭に置いて言ったものだった。


 ただ、強い調子で言ったものの、今までのように人を見下すような傲慢な態度はは取っていなかった。


 最後の、


「期待している」


 という言葉は、グラスジュール殿下の気配りが込められてと言っていい。


 各師団長は、グラスジュール殿下に対して全員、その場で指揮に従うことを承諾した。


 ただこれは、その場の雰囲気というものが大きく、承諾するしか選択肢がなかったのだと言えるだろう。


 王妃殿下の影響力は大きい。


 その為、実際には、グラスジュール殿下にすぐ従うという風潮にはならなかった。


 それでもグラスジュール殿下に威圧された影響は少なくないものがあった。


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