第九十三話 グラスジュール殿下の期待と王妃殿下の攻勢
今でこそ強さそのもののグラスジュール殿下ではあるのだけれど、幼い頃はそこまで心が強くなかったので、王妃殿下にイジメられた後は、悔しくて涙にくれることも多かった。
しかし、国王陛下は、グラスジュール殿下の幼い時から、王妃殿下がウスタードール殿下を推してきても、グラスジュール殿下を王太子から変更しようとはしなかった。
グラスジュール殿下も幼いながら、国王陛下に、
「ウスタードールに王太子の座を譲りたいです」
と言ったことがあるのだけれど、
「戯言を申すでない」
と言われ、全くといっていいほど取り合ってもらえなかった。
そこでグラスジュール殿下は、わがままを言い、傲慢な態度を取れば、父親である国王陛下が、
「このようなものは王太子の器にあらず」
と言って、王太子をウスタードール殿下に変更してくれるのでは、と思ったのだった。
また、これで王妃殿下が、
「このような粗暴なふるまいをする子であれば、王太子にふさわしいと思う人間は少なくなっていく。そうなれば、ウスタードールにとってはじゃまな存在ではなくなる。自然とウスタードールが王太子になっていくだろう」
と思うようになって、自分に対する敵愾心が弱まっていき、自分のことを甘く見るようになることをグラスジュール殿下は期待していた。
王妃殿下は、グラスジュール殿下の想定程、グラスジュール殿下に対する敵愾心を弱めることはなかった。
しかし、グラスジュール殿下のことを甘く見るようになり、グラスジュール殿下の動きに対してはたいして注意を払わなくなった。
自分に反発したところで、何もできないだろうと思うようになっていたのだ。
グラスジュール殿下にとっては、王妃殿下の敵愾心がそれほど弱まらなかったのは残念だった。
しかし、甘くみられるようになったことで、以前よりも動きやすくなった。
その点で、一歩前に進むことができたと言っていい。
グラスジュール殿下は同時に、王妃殿下やその周囲の情報を集めるようになった。
王妃殿下の自分に対する敵愾心を薄める努力は続けていこうと思っていた。
しかし、それでも、自分が王太子のまま年齢を重ねて行った場合、王妃殿下が実力行使をして、自分を王太子の座から追い出すという可能性は残っている。
その前に先手を打って、国王陛下がいくら自分を推そうとも、王太子の座を返上しなければならない。
場合によっては、この王国を脱出しなければならなくなるかもしれない。
いずれにしても、その対策を立てる為には、情報が必要だった。
それからグラスジュール殿下の態度が変わっていき、つい先日には、王室と貴族のほとんどから悪口を言われ、
「王太子の器ではない」
と言われるようになっていた。
わがままばかり言い、傲慢な態度を取るので、このままだと暴君になってしまうという懸念が大きくなってきていたのだ。
国王陛下もそうした声に押され始めていて、グラスジュール殿下に王太子の座を譲ることも考えな変えれ
ばならないところまできていた。
しかし……。
王妃殿下は、ここ数年、贅沢三昧の生活をし、それを維持する為に重い税を国民に負担させて、国民を苦しめていた。
それなのに、国王陛下は王妃殿下の思い通りになっていて、それを止めることができない。
グラスジュール殿下も国民が苦しんでいることについて、
「わたしには関係はない。贅沢をしたければすればいいのだ」
と傲慢な態度を取って言い放ち、特に対応はしてこなかった。
王妃殿下は権力を持っているので、王妃殿下にただでさえ嫌われているグラスジュール殿下にとっては、ここで異を唱えると、どのような手で陥れてくるか、わからなかったからだ。
しかし、内心では国民の窮状について、ずっと心を痛めていた。
そして、ここ最近、国民からの収奪がますます激しくなってきていて、国民の不満はたまる一方で、反乱の可能性まで出てきたということを認識したグラスジュール殿下は、
「国民の生活は今すぐにでも改善しなければならない」
「このままではボランマクシドル王国の存亡にかかわることになる」
「わたしがリーダーシップを発揮しなければ!」
と強く思った。
そこで、グラスジュール殿下は、
「生まれ変わる決意」
をして、それまでの態度を改め始めた。
今までの最悪とも言える評判からまず手をつけることから始めたのだ。
そして、ある程度評判が良くなってきたところで、改革に取り組もうとしていた。
その結果、グラスジュール殿下は、急速に周囲の評判を改善し始めていた。
今までの国王陛下は、グラスジュール殿下ときちんとコミュニケーションを取っていたとは言い難く、グラスジュール殿下のことを理解しているとは言えない状態だった。
その為、一時は国王陛下もグラスジュール殿下のことを王太子の座から外すことも検討しかけるほどになっていた。
しかし、グラスジュール殿下が国王陛下の話し合いの場を持った結果、国王陛下はグラスジュール殿下のことを理解し、グラスジュール殿下を改めて王太子として認識し、そして、自分の後継者として認識することにした。
このグラスジュール殿下との話し合いは、今までの親子断絶を埋めるべく、様々なことが話し合われた。
グラスジュール殿下は、この中で、これからの自分の政治方針について熱く語った。
それを聞いた国王陛下は、グラスジュール殿下のことを高く評価した。
ただ、この話し合いは、国王陛下にとっては厳しいものでもあった。
数年前から、王妃殿下が贅沢三昧の生活をおくる為、国民の税負担を重くし、国民を苦しめていることを、王妃殿下を寵愛していた国王陛下は、止めようとすることは全くなかった。
グラスジュール殿下は、この話し合いの中で、国王陛下に対して、
「父上、このままではわが王国は、衰退の一途をたどります。母上を父上が止めなければなりません」
と強い調子で奏上したのだ。
しかし、国王陛下は、王妃殿下を止める気力がないままだった。
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