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第九十二話 誤算

 王妃殿下によるウスタードール殿下の擁立は、こうして失敗に終わった。


 グラスジュール殿下のことを甘く見ていたのが一番の要因のように思う。


 王妃殿下は数年前から、国王陛下が王妃殿下を愛していて、思いのままになっているのいいことに、自分の目的を達成する為に動くようになった。


 王妃殿下の目的は、ます第一に、ウスタードール殿下を王太子にして国王陛下の後継ぎにすること。


 そして、もう一つの目的は、自分が贅沢を極めること。


 その目的を達成する為、まず本来は国王陛下直轄であるはずの近衛師団を、代理という形ではあるものの、全部自分の指揮下に入れた。


 近衛師団は五個師団が存在しているのだけれど、その五個師団全部ということになる。


 もちろん王妃殿下は国王陛下の代理なので、国王陛下の指揮に最終的には従わなければならないものの、王妃殿下に骨抜きにされている現状の国王陛下であれば、自分の言うことに全部従うだろうと王妃殿下は思っていた。


 従って、特に問題だとは思っておれず、これで権力の基盤が固まったと思っていたのだ。


 そうして自分の権力基盤を固めた後、グラスジュール殿下を王太子にするべく、味方を増やし始めた。


 それではなく、自分の贅沢三昧の為、国民から重い税を取り立てるようになる。


 国王陛下は王妃殿下の行動に、何も言うことはできなかった。


 王妃殿下によるグラスジュール殿下を推す勢力の拡大は、グラスジュール殿下に身の危険を感じさせるものとなる。


 実際、近衛師団を指揮下に入れている王妃殿下にしてみれば、適当な理由でいつでもグラスジュール殿下のことを始末できる体制になった。


 ただ、王妃殿下としても、近衛師団を動かすのは勇気のいる話だった。


 近衛師団を動かして無理やりウスタードール殿下を擁立した場合、グラスジュール殿下を生かしておくと復讐の対象になってしまう。


 グラスジュール殿下の復讐が成就すれば、今度は王妃殿下の方が始末をされる立場になる。


 それを防ぐためにも、ウスタードール殿下の擁立に成功したらグラスジュール殿下は処断するしかない。


 しかし、この場合、グラスジュール殿下は同情される立場になるので、王妃殿下とグウスタードール殿下が非難されることになる。


 そうすると、ウスタードール殿下が後継者になっても、王室内や貴族たちの協力を得ることは難しくなってしまうので、政治を行う上で支障が出てしまう。


 国王陛下に、ウスタードール殿下を推す勢力が多いことを認識してもらって、平和的にウスタードール殿下を王太子にすることを決めてもらうのが一番いい。


 この場合、王太子を変更するのは国王陛下なので、非難の矛先が王妃殿下に向くことはない。


 グラスジュール殿下を王太子の座から外してしまえば、後は王妃殿下のもの。


 ただこの場合でもグラスジュール殿下は、王太子の座を奪い返してくるかもしれないので、従順にならない限りは、処断をすることになる。


 その時は、既にウスタードール殿下の王太子としての地位は盤石になっているのだから、グラスジュール殿下に同情する人はほとんどおらず、自分が非難されることはないだろう、という思いを持っていた。


 王妃殿下は、平和的にウスタードール殿下が王太子になることを望んではいたものの、どちらの選択肢も選択できるように動いていた。


 グラスジュール殿下にとってはどちらも厳しい話。


 いずれにしても、最後は処断されてしまう。


 グラスジュール殿下はこの二つの選択肢のことをいずれも想定していた。


 もともとグラスジュール殿下は王妃殿下にイジメられていたので、王妃殿下の動きには敏感だった。


 グラスジュール殿下は、王太子の座に自分がいる限り、王妃殿下の自分に対する嫌がらせが止まることがないと幼い頃から認識していた。


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