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第九十話 グラスジュール殿下の大活躍

「さあ、それでもわたしに歯向かうというのであれば、かかってこい!」


 自信満々のグラスジュール殿下。


 光り輝くような姿。


 威圧感がものすごい。


 なんと凛々しくかっこいいのだろう……。


 うっとりするわたし。


 ブリュネ中将と兵士たちは、グラスジュール殿下に威圧されて、その場から動くことができない。


 先程の三人のように戦っても倒されるだけ、ということが、あっという間に認識されていく。


 さすがはこの王国一の剣術の達人だ。


「なにをしているのだ、お前たち! グラスジュールはわたしに歯向かっている。権限書など関係はない! わたしが命令するのだ! そなたたちは、今の三人以外のものも優秀なのだから、ものおじせず、立ち向かっていくのだ!」


 王妃殿下はそう叫ぶのだけれど、誰も動こうとはしない。


 そして、ついには、ブリュネ中将が、


「グラスジュール殿下、ご指示に従います。権限書をお持ちであるということももちろんでありますが、それと同時に、グラスジュール殿下に対して刃を向けることの愚かしさに気付きました。このような事態を招いてしまいまして、申し訳ありません。きちんと反省をし、これからはグラスジュール殿下に忠誠をお誓いたします。お許しください」


 と言って、グラスジュール殿下に平伏すると、兵士たちも次々に平伏し出した。


 先程グラスジュール殿下に斬りかかった三人も、グラスジュール殿下の前にきて平伏し、


「グラスジュール殿下、申し訳ありません」


 と言って、謝った。


「お前たち、なざせわたしの命令が聞けないのだ!」


 王妃殿下はそう叫ぶのだけれど、それを空しく響くのみ。


 やがて、王妃殿下は泣き出した。


 継母とコルヴィテーヌは呆然としている。


 グラスジュール殿下は、ちょっと同情する様子を見せたものの、すぐに切り替えたようだ。


 そして、ブリュネ中将と兵士たちに対し、


「そなたたちは、母上の命令に従わざるをえず、このような行動に出ざるをえなかったのであろう。本来であればわたしに歯向かったということは許しがたいことだ。しかし、そなたたちはすぐに降伏した。このことは評価していいだろう。そこでわたしは、先程申した通り、そなたたちに反省をしてもらい、その後、そなたたちを許すことにした。そなたたちは自分たちの陣営に戻り、これから一週間謹慎をしてしっかり反省するのだ。その後、リランドティーヌは別の役職に転出させ、他の兵士たちはこの師団で働いてもらうが、いずれしても、わたしの絶対的な忠誠を誓う部下になっていくことになる。そのことを誓い、しっかり励むように」


 とやさしく言った。


 ブリュネ中将や兵士たちは、グラスジュール殿下の言葉に対し、


「ありがたき幸せにございます。これからはグラスジュール殿下の為に尽くします」


 と平伏したままで言った。


「その言葉、決して忘れないように」


「グラスジュール殿下のお言葉、決して忘れません」


「よし。話は終わりだ。そなたたちは自分の陣営に戻れ。正式な処分はこの後伝えるが、今しなければならないことは、これから一週間謹慎し、反省をすることと、わたしに絶対的な忠誠を誓うことを決心することだ。理解できたな」


「理解できましてございます」


 ブリュネ中将とその指揮下の兵士は、平伏しながらそう言った後、立ち上がり、この部屋から去って行った。


 王妃殿下は、


「なぜお前たちはわたしの命令を聞かずに、勝手にこの部屋を去ってしまうのだ! お前たち、わたしの命令を聞け!」


 と叫んだのだけれど、もう誰も振り返るものはいなかった。


 近衛第一師団全員が部屋から立ち去って少し経った後、グラスジュール殿下は、微笑みながら、


「さて。これでだいたい決着したかな」


 と言った。


 わたしが、


「そのようでございますね」


 と応えると、今度は、部屋に国王陛下と近衛第二師団長のドディネ中将とその師団の兵士たちが入ってきた。


「グラスジュールよ、ご苦労。さすがはわたしの見込んだ男だ」


 国王陛下はグラスジュール殿下を褒めた後、


「わたしはお前のことが好きだった。夢中になっていた。今でもお前のことが好きだ。でもそのことがお前を増長させてしまったのだろうな。自分の贅沢の為に国民に重い税を課しただけではなく、グラスジュールに危害を加えようとしてしまった。残念でたまらない」


 と寂しそうに王妃殿下に声をかけた。


 すると、王妃殿下は、


「わたしはウスタードールこそ王太子にふさわしいと思っているのです。このことを実現させる為には、こうした実力行使しかなかったのです」


 と涙を流しながら言った。


「まだそんなことを言っておるのか? 王太子はグラスジュールだ。これは絶対に変えることはない」


 国王陛下はそう言った後、


「王妃、フィリシャール公爵家夫人、そしてコルヴィテーヌを連れて行け」


 とドディネ中将に命じた。


 つらそうな表情だ。


「国王陛下、どうして、わたしの愛するウスタードールを王太子にしてくれないのですか! どうか、どうか、お願いでございます。お聞き届け下さいませ!」


 王妃殿下はそう叫んだ。


 継母も、


「国王陛下、ウスタードール殿下こそが王太子としてふさわしい方でございます。グラスジュール殿下やわたしにとって敵であるリランドティーヌのようなものの言葉を聞いてはなりません。どうか、王妃殿下の言葉をお聞き届けくださいませ!」


 と叫び、コルヴィテーヌも、


「国王陛下、わたしもウスタードール殿下こそ王太子にふさわしい方だと思っているのでございます。王妃殿下とわたしの母の言葉をどうかお聞き届けくださいませ。グラスジュール殿下や敵である姉の言葉は聞いてはならないのでございます」


 と叫んでいたのだけれど、聞き入られるわけがなかった。


 三人は、ドディネ中将に指揮された兵士に連れ出されて行った。


「面白い」


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