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第八十五話 賞賛されたダンス、そして、舞踏会後から始まる改革

 わたしは最高のダンスをここで踊ったと思っていた。


 思っていたのだけれど……。


 結局のところ、わたしの思い込みに過ぎなかったのだろうか?


 わたしが落ち込み始めていると、会場から手を叩く音が聞こえ始めた。


 そして、それは、あっという間に会場全体に広がっていく。


「グラスジュール殿下、ダンス、とても良かったです!」


「グラスジュール殿下、素敵なダンスです!」


「グラスジュール殿下、愛してます!」


 グラスジュール殿下を賞賛する声がたくさん聞こえてくる。


 わたしはグラスジュール殿下が出席者から褒められていて、うれしかった。


 ただ、わたしに対する賞賛の声は今のところない。


 さすがに少し落ち込む。


 でもわたしは悪役令嬢と今でも思われているのだから仕方がない。


 グラスジュール殿下は、嫌われていた立場から脱出して、こうして賞賛されている。


 こうしたことは、婚約者としておおいに喜ばなければならない!


 そう思って、心を切り替えようとしていると、


「リランドティーヌさんもダンス、良かったわよ!」


 という声が聞こえてきた。


 グラスジュール殿下に対する声援に比べれば、ほんのわずか。


 しかし、それでもわたしはうれしくなる。


 わたしのことを評価してくれたということ。


 まだまだ悪役令嬢の印象が強いわたしにとっては、こういう人が現れてくれるということは、印象が良くなっていくことにつながっていくので、ありがたいことだと思う。


 そして、もう一人。


「リランドティーヌよ、最高のダンスだったな。とても良かった。そなたと踊れて、わたしはうれしい」


 グラスジュール殿下はそう言って、少し微笑む。


 恋をしているグラスジュール殿下の褒め言葉。


 これが何よりもうれしい。


 わたしは満面の笑みで、


「グラスジュール殿下、ありがとうございます。グラスジュール殿下のダンス、とても素敵でございました」


 と応えた。


 グラスジュール殿下はそれに対し、


「ありがとう」


 と恥ずかしがりながら言った。


 そして、わたしたちは、会場の人々の声援に手を振って応えていった。




 舞踏会で国王陛下が、


「わたしの後継者はグラスジュールである」


 と改めて宣言したことによって、グラスジュール殿下を推す勢力は急速に力を失い始めた。


 そして、グラスジュール殿下に権限の委譲の多くが譲られたことにより、グラスジュール殿下はその翌日から政務に励み始めた。


 もともと剛毅な性格なので、家臣に対する対応は、どうしても高圧的になってしまうところはあるものの、わがままを言うことはなくなり、見下すこともなくなった結果、傲慢な態度を取ることはなくなった。


 家臣たちもホッとしている様子。


 それだけではなく、グラスジュール殿下は、次々と政策を打ち出していく。


 その為の準備を、側近たちと密かににしてきたのだ。


 国王陛下も知らなかったことで、


「さすがはリランドティーヌだ」


 とグラスジュール殿下のことを褒めていた。


 わたしはますますグラスジュール殿下のことが好きになっていく。


 ただグラスジュール殿下の方は、なかなかわたしに恋するというところまではいかないようだ。


 わたしに対する好意は増大してきていると思うのだけど……。


 少し残念に思う。


 喫緊の課題は、何といても財政の黒字化。


 その主な要因である王妃殿下の贅沢については、すぐにメスを入れた。


「母上、わたしたちは国民の模範とならない立場にあるのでございます。これからは王妃殿下としてふさわしい支出しか認めません。よろしくお願いいたします」


 グラスジュール殿下がそう王妃殿下にに告げた時、王妃殿下は、


「どうしてそなたの言うことに従わなければならぬのだ! 王妃たるもの、いつもゴージャスでいなければ、国民に示しがつかない。そなたはそんな初歩的なこともわからぬのか? それにわたしが従うべきは国王陛下ただ一人、わたしはそなたの母親なのだから、わたしの指示にこそ従うべきなのだ。わたしはそなたの指示に従う必要はない。ふざけるのも大概にしなさい!」


 と反撃した、


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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