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第八十四話 凛々しいグラスジュ-ル殿下

 グラスジュール殿下の言葉は、国王陛下の逆鱗に触れかねないことだった。


 国王陛下は王妃殿下に夢中だった少し前までであれば、怒ってグラスジュール殿下から王太子の座を奪うこともありえた。


 しかし、国王陛下の方も、ここ数年、王妃殿下の言うことに無条件で従っていたことをを反省したしていて、このグラスジュール殿下の直言を黙って聞いていた。


 そして、グラスジュール殿下の思いに感動した国王陛下は、この舞踏会で、


「グラスジュール殿下を後継者とする」


 ことを宣言することにしたのだった。


 国王陛下の宣言は、王妃殿下にとって、寝耳に水の話。


 この宣言がいきなり出されたので、その場では何の反撃もできなかった。


 呆然としているしかなかった。


 さすがが国王陛下というべきだろう。


 ただ、この後の王妃殿下はずっと不機嫌そうだった。


 舞踏会なので、ここで反論をしたら、空気を読めないということで攻撃の矛先が王妃殿下の方に向きかねない。


 それで我慢をしたのだろう。


 でもここで、


「王太子はグラスジュール殿下」


 と認めるとは到底思えない。


 いずれ反撃をしてくるだろう。


 その心配はしなければならない。


 この宣言に続き、グラスジュール殿下は、


「もう今までのわたしではない。わたしは国王陛下の後継者として、この王国の改革を行っていく。そして、国民全体を幸せにする」


 と高らかに宣言した。


 今ここに立っているグラスジュール殿下は、それまでのだらしない服の着こなしや、洗ってはいるものの整っていなかった髪の毛、といういい加減な身だしなみを脱し、王太子にふさわしい身だしなみに変化していた。


 礼服をきちんと着こなし。凛々しく、そして爽やかな容姿。


 今まではだらしなくしていて、しかも傲慢な態度を取っていたので、その容姿を評価されることが少なかったグラスジュール殿下。


 それが今や爽やかなイケメンとして生まれ変わった。


 その姿にうっとりするわたし。


 ああ、グラスジュール殿下にわたしのすべてを捧げたい!


 自分で言っていて恥ずかしくなってくるのだけれど……。


 グラスジュール殿下の新しい姿を見た貴族令嬢たちは、次々に心を奪われていき、グラスジュール殿下に熱い思いを持つようになっていく。


 初めて会った時から、グラスジュール殿下をイケメンとして評価していたわたしにとっては、今さらという気しかしない。


 まあ、あれだけだらしなくしていて、傲慢な態度を取っていたら、嫌われるのも仕方にないことだとは思う。


 会場がグラスジュール殿下に対する熱い思いに包まれ、王室楽団が美しい音楽を演奏する中、グラスジュール殿下とわたしは、ダンスを踊っていく。


 グラスジュール殿下もわたしも幼い頃からダンスの厳しいレッスンを受けている。


 そして、この舞踏会に向けて、わたしがグラスジュール殿下のところを訪れる度に、短い時間ではあったものの、二人で練習をした。


 わたしは悪役令嬢という自分に対しての印象を払拭すべく、一生懸命努力をしていた。


 とはいうものの、まだまだ悪役令嬢という印象は強いまま。


「グラスジュール殿下の婚約者として踊るなんて……。悪役令嬢でのくせに。グラスジュール殿下とつり合わないということがなぜわからないのかしら。恥さらしそのものとしかいいようがない。身をわきまえるべきだわ」


 グラスジュール殿下があこがれの人に変わったので、悪口はわたしに集中することになっていく。


 舞踏会が始まる前は、わたしに対する出席者の悪口がこちらまで聞こえてくるほどだった。


 いや、ダンスが始まる直前も悪口が聞こえてきていた。


 さすがにダンス中は静かにしているようだったが、心の中ではわたしに対する悪口を言っているような気がする。


 しかし、わたしは気にすることなく、ダンスを踊り続ける。


 恥ずかしさはないわけではない。


 でもそれ以上に、グラスジュール殿下と一緒に踊ることができるという喜びがあった。


 ダンスが終わると、一瞬、会場は静かになった。


 下手だと思われてのだろうか?


 そんなはずはない。


 自分としては今までで最高のダンスを踊ったつもりだったし、グラスジュール殿下のダンスは最高だったので、最高の評価をもらってもいいはずなのだけど……。


「面白い」


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