第八十二話 復帰したグラスジュール殿下
グラスジュール殿下はわたしが治療をした後。二日ほど休養を取った。
なにしろ危篤の状態にまでなったのだ。
回復しているとは言っても、念の為、様子を見る必要があった。
グラスジュール殿下は、
「体の調子は良くなった。もう大丈夫だ」
と言って、すぐにでも病床から出たがっていた。
しかし、侍医はグラスジュール殿下に
「二日の間、我慢してくださいませ。読み上がりですので、無理はいけません。どうか、休養していただきますよう、お願いいたします」
と言った。
グラスジュール殿下は、
「明日からもう病床から出れそうなのに」
と言ってはいたものの、結局、その指示に従った。
それから二日後。
わたしは再びグラスジュール殿下の病床に呼ばれていた。
グラスジュール殿下の意向により、グラスジュール殿下とわたしがこうして会うのは、もう「謁見」という形式ではなくなっている。
普通に会うという形式になっていた。
グラスジュール殿下はベッドのそばのイスに座り、侍医の診察を受ける。
そのそばのイスに座った国王陛下は、心配そうに見守っていた。
無理もないと思う。
しかし、わたしはもう大丈夫だと思っていた。
症状はもうないし、血色も良さそうだったからだ。
侍医は診察の後、
「もう大丈夫でしょう。明日からは、学校、そして、公務に復帰してかまいません」
と冷静に言った。
国王陛下は、その言葉を聞くと、
「良かった。本当に良かった。リランドティーヌよ、わたしはうれしい」
と涙ぐみながら言った。
わたしも胸が熱くなり、涙がこぼれそうになりながら、
「グラスジュール殿下、元気になられて本当に良かったです」
と言った。
グラスジュール殿下は国王陛下の方を向き、
「父上、心配をおかけしました。今まで看病していただいてありがとうございます。もう大丈夫です」
と言って頭を下げた。
次に侍医の方を向き、
「改めてそなたには感謝したいと思う。これからもよろしくお願いする」
と言って頭を下げた後、わたしの方を向いた。
そして、
「リランドティーヌよ、治療をしてくれてありがとう。改めて感謝する」
と言って頭を下げた。
わたしは涙声になりながら、
「グラスジュール殿下のお役に立つことができて、これ以上の喜びはございません」
と応えた。
グラスジュール殿下は、翌日から学校に復帰し、公務にも復帰した。
病気になる前よりも元気になっている気がする。
グラスジュール殿下の病気が良くなった後、わたしはグラスジュール殿下と三日に一度ほど会うようになった。
わたしとしては毎日会いたいと思っているのだけれど、お互いに忙しいので、これが限界といったところだ。
グラスジュール殿下の着こなしまだラフなままで、髪の毛の方も、洗ってはいるものの整えてはいない。
その点では以前と変わってはいない。
しかし、もう今までのようにわがままで傲慢な態度を取ることはない。
国王陛下の後継者となるべく、気力を取り戻し、精力的に動き始めていた。
国王陛下と話し合い、権限の大幅以上を受けることも決まったので、これからますます忙しくなっていくことだろう。
最終的な目標は、すべての国民を幸せにすること。
グラスジュール殿下は、わたしと会う度に力強くそう話す。
頼もしい限りだ。
グラスジュール殿下とのおしゃべりは、グラスジュール殿下が病気になる前は、グラスジュール殿下が傲慢な態度を取っていたこともあって、楽しいものだとは言えなかった。
しかし、今は違う。
グラスジュール殿下とわたしは、お互いにおしゃべりを楽しむようになってきた。
そして、わたしはグラスジュール殿下と気が合っているのだと思うようになってきた。
わたしはますますグラスジュール殿下のことを好きになっていく。
グラスジュール殿下にいつ求められてもいいように、心の準備を整えていた。
というより、もうすぐにでも求めてほしいと思うようになっていた。
あら、わたしったら、なんて恥ずかしいことを思っているのかしら……。
しかし、グラスジュール殿下の方は、まだわたしに恋をするところまでは行っていないようだ。
それは残念ではあるけれど、しかし、こうして会っている内に、わたしに対する好意は大きくなってきているようだった。
この調子でいけば、それほど遠くない内に、相思相愛になれるだろう。
わたしの心の中に、大きな期待が生まれてきていた。
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