第八十一話 信頼
グラスジュール殿下は、続けて、
「わたしは今日から、そなたの好意に応えるべく、生まれ変わったという気持ちで生きていくことを決意した。わたしはこれから、そなたと一緒にこの王国を発展させ、豊かにし、そして、国民を幸せにしていきたいと思っている。つまり、この王国の改革を一緒に行うということだ。そなたは、もし、わたしの婚約者でなかったとしても、わたしのそばでこれからずっと協力をしてほしいと思っているほどの存在だ、リランドティーヌよ、このわたしの思いを受け止めてくれ。そして、わたしのそばにずっといてくれ!」
と熱意を込めて言った。
わたしはこの言葉を聞いて、心が一気に熱くなった。
「わたしのそばにずっといてくれ!」
この言葉は、現時点では、わたしに恋をしたことによって発したものではない。
それは残念なところだ。
しかし、わたしの好意、そして、わたしへの信頼があるから発した言葉だと言える。
わたしはその思いに応えたい。
「グラスジュール殿下、わたしはグラスジュール殿下のずっとおそばにいます。そして、グラスジュール殿下がこれから実行しようとしているこの王国の改革のお手伝いを一生懸命していきたいと思います」
わたしはそう言った後、一回言葉を切る。
そして、心を整えた後、
「わたしはグラスジュール殿下が好きで、恋をしています。わたしはグラスジュール殿下にふさわしい女性になれるように、そして、わたしに振り向いてもらい、相思相愛の夫婦になれるように、一生懸命努力してまいります」
と恥ずかしさを抑えながら言った。
それに対しグラスジュール殿下は、
「リランドティーヌよ、よく言ってくれた。わたしたち二人が一緒に協力していけば、きっとこの王国は住みやすく、素敵なところになるだろう」
と言った後、微笑みながらわたしの手を再び握った。
グラスジュール殿下の心のやさしさが流れ込んでくる。
それと同時に、グラスジュール殿下の体の調子が心配になってきた。
「グラスジュール殿下、お体の方は大丈夫でしょうか? こうしてお話をされていると、疲れがたまってきているのでは?」
わたしがそう言ったのに対し、
「大丈夫だ。そなたと一緒にいると、力が湧いてくるような気がする」
と言ってくれた。
うれしい言葉だ。
そして、グラスジュール殿下は。
「わたしは生まれ変わる。そなたはわたしのそばにずっといるのだ!」
と力強く言う。
それに対し。わたしは、
「わたしはグラスジュール殿下についていきます」
と力強く応える。
わたしたちは、お互いに顔を近づけていき、見つめ合った。
こうして見ると、グラスジュール殿下はイケメンであることがより一層認識されてくる。
途端に恥ずかしくなってくるわたし。
グラスジュール殿下の方も恥ずかしがっているようだ。
こういう展開になることは予想をしていなかった。
ここに来たのは、グラスジュール殿下を病気から救うことが目的だった。
急な展開なので、心の準備が足りていない。
しかし、これは仲を深めるチャンスかもしれない。
グラスジュール殿下が唇を近づけてきたら、それに応えなければ。
もし、それ以上のことを求めてくるのなら、それにも対応しなければ。
そのように思い、今、心の準備をしようとしているものの、胸のドキドキが大きくなってきて、なかなか難しい。
でもそんなことは言っていられない。
何とか心の準備をして、グラスジュール殿下の求めに応じなければならない。
わたしの心の中で、様々な思いが浮かんでいたのだけど……。
グラスジュール殿下は、それ以上に進もうとしない。
後少しで、お互いの唇と唇が触れ合うところまできているのに……。
わたしの方から唇を近づけ、グラスジュール殿下の唇に重ねたい!
そのようなことも一瞬思った。
しかし、グラスジュール殿下はまだわたしに恋をしていない。
この段階で唇と唇を重ね合わせるわけにはいかない。
そう思って躊躇していると、グラスジュール殿下は、わたしから顔を離していく。
そして、わたしたちは、先程よりお互いに少し顔を離した位置で再び見つめ合う。
今日はもうキスどころか、ここからまたお互いに近づいていくのも無理そうだ。
また次の機会というところだろう。
やはり、もう少し親しくならないとキスまで進むのは無理そうだ……。
少し残念な気持ちになる。
でもわたしはこれからずっとグラスジュール殿下のそばにいる。
それほどの遠くはない時期に、相思相愛になることができると思う。
その為にも、一生懸命努力をしていかなくてはいけない!
わたしが改めて決意をしていると、グラスジュール殿下は、
「わたしがそなたに恋をするのも時間の問題かもしれないな」
と恥ずかしそうに言った。
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