第七十九話 好意
グラスジュール殿下が頭を下げてきたので、わたしはあわてて、
「グラスジュール殿下、頭をお上げください」
と言った。
そして、
「わたしは迷惑とだというようななことは、全く思っておりません。わたしはグラスジュール殿下の婚約者でございます。そして、これから妃になっていく人間でございます。グラスジュール殿下はこの王国の希望でございます。この王国を発展させ、豊かにし、国民を幸せにしていく方だと思っております。そして、わたしはその希望でいらっしゃるグラスジュール殿下とこれから一生、苦楽をともにしていきたいと思っているのです」
とやさしく言った。
グラスジュール殿下は頭を上げると、
「そなたはやさしい人だ。迷惑だとこちらが思ったことを気にすることがない。そして、わたしのことを『この王国の希望』と言ってくれたし、わたしと『苦楽をともにしていきたい』と言ってくれている。ありがたいことだ」
と言った。
それに対し、わたしは、
「わたしのことを『やさしい人』と褒めていただきまして、こちらこそありがたいと思っております」
と言った後、一回言葉を切る。
そして、恥ずかしい気持ちに、またなってくるのを抑え、心を整えた後、
「わたしのグラスジュール殿下への恋する気持ちも、ご理解をいただけるとありがたいです」
と言った。
今日、既に何度かグラスジュール殿下への気持ちを伝えている。
少しは慣れてきてもいいところなのだけれど、依然として恥ずかしい気持ちが湧き出し、胸のドキドキが大きくなる。
グラスジュール殿下はわたしの言葉に対して、まだその直接的な返事をしていない。
グラスジュール殿下はわたしのことをどう思っているのだろう?
恋をしているようには思えない。
恋どころか、好意を持ってもらっているかどうかもわからないところだ。
でもさすがに嫌っていることはないだろう。
そのようなことをが心の中に浮かんでいると、グラスジュール殿下は、
「そなたにはもう一つ話をしておかなければいけないことがある」
と言ってきた。
さすがにここでわたしのことを嫌いだとは言わないだろうし、婚約破棄のことを言い出すこともないだろう。
ないと思うのだけど……。
どうしても前世で婚約破棄をされた時のことを思い出してしまう。
わたしにとって、それだけ心の傷になっているということなのだろう。
わたしは緊張しながら、グラスジュール殿下の言葉を待つ。
すると、グラスジュール殿下は、
「わたしはそなたに好意を持っている」
と少し恥ずかしそうに言った。
わたしは驚いた。
そして、
「それは本当のことでございますか?」
とグラスジュール殿下に聞き返した。
それに対して、グラスジュール殿下は、
「本当のことだ。そなたに対する好意は、そなたときちんと初めて会った時に芽生えたものだ。そこから少しずつそなたへの好意が強くなってきている気がする」
と応えた。
これは希望のもてる言葉だ!
そう思っていると、グラスジュール殿下は、
「しかし、そなたに好意は持っていても、恋をしているわけではない」
と言ってきた。
少し落胆するわたし。
でもまだまだ時間はある。
グラスジュール殿下との関係をきちんと構築していくのは、むしろこれからだと思っていると、
「そなたを落胆させたようで、申し訳ない。しかし、わたしはそなたに恋することはないと言っているわけではない。それは誤解をしないでほしい。わたしは恋というものをまだ一度もしたことがない。それは、恋というものがどういうものなのか、良くわからないところがあったというころもある。しかし、それ以上に、今までのわたしの心は閉ざされていて、自分以外の人間そのものを信じることができなかったことが大きい。そなたも知っての通り、わたしは王室内において敵が多く、それも増える一方。そういう状況だったので、恋をしたいという気力自体がなかなか湧いてこなかったのだ」
と言った。
グラスジュール殿下が言っている通り、王室内には敵が多く、それは増える一方だった。
人のことが信じられなくなるのも仕方がないと思う。
その為、女性との交流自体も少なかった。
手紙のやり取りどころか、話をすること自体少なかった。
学校は、男女別校舎だったし、王宮で話をするのは王妃殿下や侍女だけだと言ってもいいぐらいだ。
その王妃殿下と話をすることも極力避けている。
そして何よりも、学問、武術、馬術に集中していた。
グラスジュール殿下はとても優秀な方なのだ。
ただ、全く女性と交流をしなかったと言うわけではない。
学校行事などの機会では、女性と話をしていた。
わたしもこうした行事の時に話をしたことがある。
話といっても、あいさつ程度のものでしかなかったのだけれど……。
ただ、既に評判が悪くなっていたグラスジュール殿下だったので、こうした機会にグラスジュール殿下と話をしようとする女性は、意外と少なかった。
それでもこうした行事の時にグラスジュール殿下に告白をする女性は存在していた。
その中で気に入った女性がいて、その人と付き合ったとしても、驚くことはない。
しかし、グラスジュール殿下が付き合った女性は、今まで一人もいないと聞いている。
グラスジュール殿下の方からすべて断っていたのだ。
グラスジュール殿下については、そういう話を聞いていて、女性にほとんど興味がないという認識を持っていたので、わたしに対しても好意は持っていなかったとしても、それは仕方のないことだと思っていた。
わたしに好意を持っていると言ってもらえたのは、だからこそ希望を持てる言葉だった。
とはいっても、すぐに結果を求めてはいけない。
わたしとしてはすぐにでも恋仲になっておきたかったのだけれど、ここはじっくりと仲を深めていくべきだろう。
わたしはそう決意をするのだった。
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