第七十五話 わたしの想い
わたしに対して、グラスジュール殿下は、
「婚約破棄を申し出るべきだろう」
と何度も言ってきていたし、今もそう言ってきた。
これは、わたしへの思いやりの気持ちなのだろう。
その気持ちは理解してきている。
しかし、今までならまだしも、わたしはグラスジュール殿下に対して、
「恋をしたのでございます」
とその想いを伝えている。
それでもグラスジュール殿下はまたもこの言葉を口にしてきた。
わたしの言葉の意味を少しでも理解をしてくれたになら、
「婚約破棄」
と言う言葉を軽々しく使うことはできなくなると思うのだけれど……。
そう思っていると、グラスジュール殿下は、
「リランドティーヌよ、そなたに聞きたいのだが、なぜわたしに恋をしたというのだ? 先程も申した通り、わたしはそなたが好きになるような魅力は全く持っていない。性格も最悪なのは、そなたも知っての通りだ。それにわたしは、そなたがわたしのことを嫌いになるような対応しかしたことがない。そんなわたしのことを好きになるなど、あるわけがないのだ。冗談だと言うならそう言ってほしいところだ」
と言った。
わたしはグラスジュール殿下の話を聞いていて、心の底からあきれてしまった。
いくら周囲に味方が少ないからと言って、なぜここまで自分の評価を下げる必要があるのだろう?
でもわたしは違う。
グラスジュール殿下のことが好きだし、高く評価しているのだ。
グラスジュール殿下は心の底で、信頼できる人物を求めていると思う。
その人物にわたしはなっていきたい!
そう思う一方で、グラスジュール殿下本人に対して恋をした理由を話さなければならないと思うと、恥ずかしい気持ちがまた沸き上がってきてくる。
そんな気持ちになっている場合ではないはずなのに、恋をしている対象がそばにいるというので、こればかりはどうしょうもない。
しかし、とにかくその気持ちは抑え込んでいかなければならない。
わたしは心を整えると、話をし始める。
「グラスジュール殿下は、初めてきちんとお会いした時、わたしに対してもわがままで傲慢な態度を取っておられましたので、すぐには好意を持っていたわけでありませんでした。しかし、グラスジュール殿下とわたしが同じような境遇だという話はきちんとお会いする前から伺っておりましたので、親近感は覚えていたのでございまして、そのことが心に浮かんでからは、そういう態度は意図的に取っていて、偽悪的に振舞っているのだということを理解するようになりました。そのことが、わたしがグラスジュール殿下に好意を持つきっかけととなったのです。そして、その後、お会いする機会を重ねる内に、面倒なことを避けているばかりで気力を失っていたグラスジュール殿下が、見違えるように気力が湧き出し始めたのです。先程も申しました通り、どうしてそのように変化されたのかということまではわかりませんが、とてもいい方向ではないかと思ったのでございまして、このまま進んでいけば、あふれ出すほどの気力を持つようになると思い、そのようになっていけば、政治の方でも成果を上げていけるのではないかと思いました。わたしはそうしたグラスジュール殿下の姿を見て。期待をさせていただくと同時にますます好意を持つようになったのです」
グラスジュール殿下は黙って聞いている。
「その好意はどんどん強くなっていきました。そのような時に、グラスジュール殿下が病気で倒れてしまわれました。わたしとしては、絶対にお救したいとの一念で、ここに駆け付けさせていただきました。そして、治癒魔法で治療をさせていただきました。治療が終わり、グラスジュール殿下が回復されたのを見て、わたしはホッといたしましたが、その後のグラスジュール殿下の心のやさしさによって、わたしのグラスジュール殿下への好意は恋に変わっていったのでございます」
「わたしの心のやさしさ?」
「グラスジュール殿下は。もともと心のやさしい方です。幼い頃はそうだったと伺っておりますが、今もその本質は変わっていないと存じます。先程、国王陛下や侍医に対して心からの感謝をしておりましたし、わたしに対しても心からの感謝をしていただきました。この時、わたしはとてもうれしかったのですが、それと同時に、グラスジュール殿下の心のやさしさが身に染みたのでございます。こうしてわたしはグラスジュール殿下に対して恋をするようになったのです」
最後の方は、恥ずかしくてたまらなくなっていった。
それでも何とか言い切ることができた。
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