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第七十三話 好意が増していく

「婚約については、そなたの方から破棄すればいいと申しているではないか。それに踏み切らない理由が理解できない。ずいぶんと頑固なものだな」


 グラスジュール殿下がそう言ったのに対し、わたしは、


「わたしはグラスジュール殿下とは同じような境遇でございます。もちろん細かいところは違うと思いますが、わたしも継母に嫌われ、異母妹との仲も悪いです。今はわたしの方からは嫌味を言うことはなくなりましたが、最近まではお互いに嫌味を言い合っておりました。恥ずかしい話でございます。そして、それだけではなく、実の父親にも嫌われております。フィリシャール公爵家内部においても、異母妹を後継者にする勢力が強くなっているので、もうフィリシャール公爵家の中でのわたしの居場所はなくなりつつあります。その意味でわたしはグラスジュール殿下のお気持ちはある程度は理解できますし、また、より一層理解を深めていくこともできるのではないかと思い、その努力も一生懸命してまいりました。そして、理解を続けていくと同時に、グラスジュール殿下に尽くしていきたいという気持ちも、大きくなってきたのでございます」


 と応えた、


 わたしがグラスジュール殿下にこの話をしたのは初めてだった。


 グラスジュール殿下はわたしの話を聞いて驚いているようだ。


「そなたの家族構成自体は知っていた。そして、ある程度ではあるものの、そなたがフィリシャール公爵家において、だんだん孤立し始めていると言う話は聞いてきた」


「そうだったのですか……。それは知りませんでした」


 グラスジュール殿下もそれなりにわたしのことを気づかってくれていたということだろう。


「しかし、そなたがフィリシャール公爵家において、居場所がなりつつあったということまでは認識していなかった。わたしとの婚約も、その大勢をくつがえすほどの効果はなかったようだな。まあ、悪い噂がたくさん流れているわたしとの婚約では、逆に孤立が深まっただけかもしれないということは言えるかもしれないな」


 グラスジュール殿下はそう言うと、少し苦笑いをした。


「そのことについては、わたしは全く気にしておりません。グラスジュール殿下の良いところを認識することのできない方に問題があると思いますから」


「まあ、わたしは悪い噂を立てられてもしょうがない生き方をしてきたからね。その点については、そなたがわたしに対して批判をするのは、仕方がないことだと思っている」


「なにをおっしゃいますか。批判されるべきは、グラスジュール殿下のことを理解できないものたちの方だと思っております。なぜグラスジュール殿下の良い点を理解しようとしないのか、と思うのです」


 わたしがそう言った後、グラスジュール殿下は腕を組んで考え込む。


 そして、グラスジュール殿下は、


「そなたはどうしてここまでわたしのことを擁護するのだ? わたしと同じような境遇ということは理解したし、わたしのことを理解しようと一生懸命努力していることも、理解できなくはない。しかし、それだけではないだろう?」


 と言ってきた。


 二人きりになってしばらくの間は、今までのように傲慢な態度を取っていたグラスジュール殿下。


 わたしとまともな会話をする気持ちはなかったように思う。


 しかし、今はそれが変化し、わたしと真剣な会話をしている。


 グラスジュール殿下も変わろうとしているのだろう。


 グラスジュール殿下との仲を深めていく為の一歩をやっと踏み出すことができた気がする。


 ただ、この後だ。


 わたしはグラスジュール殿下に対する好意が、何度も会っている内にだんだん増すようになってきた。


 グラスジュール殿下の偽悪的な行動について、その意味を考えて、心の中でまとめていったことも、好意が増すことについて貢献をしたと思っている。


 グラスジュール殿下の病床における治癒魔法での治療自体は、好意がそれほどなかったとしても行うことになったと思う。


 しかし、好意が増していたからこそ、治癒魔法もより多くの効果を発揮したのだと思う。


 わたしは治療することができてホッとしていたが、それだけではなく、グラスジュール殿下への好意をますます増すことになった。


 わたしはグラスジュール殿下に恋をし始めていた。


 でもこの気持ちを伝えていいものだろうか?


 グラスジュール殿下の方は多分わたしに恋をするところまでは到達していないだろう。


 それどころか、好意でさえもどこまで持っているものだろうか?


 わたしに対して一定の配慮をしていることは理解をしていたのだけれど……。


「面白い」


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