第七十二話 グラスジュール殿下のプライド
わたしは話を続ける。
「しかし、国王陛下はグラスジュール殿下以外の方を王太子にする気はありません。このままでは難しい展開になると思ったグラスジュール殿下は、わがままで傲慢な態度を取り始めました。そうすれば自然と自分を王太子として盛り立ててくれる人は減り、最終的には国王陛下もグラスジュール殿下を後継者として認めざるをえないだろうと。グラスジュール殿下は、自分が後継者ではなくなれば、後は気ままに他の国に行ってスローライフをおくりたい……。そういう思いから偽悪的な態度を取っておられたのです」
わたしはここで一度話を切った。
グラスジュール殿下は黙ってわたしの話を聞いていたのだけれど、わたしの話に対して、
「リランドティーヌよ、ずいぶんと面白い話をしてくれるではないか。今のそなたの話は、そなたの耳に入ってきた情報をもとにしたことなのか?」
と聞いてきた。
怒ってはいないし、傲慢な態度は取っていないが、
「面白い話」
と言っているにも関わらず厳しい表情をしている。
「そうでございます。おそれながら申し上げますが、グラスジュール殿下のことについては、様々な情報が流れております。その情報をもとにして、わたしなりに、グラスジュール殿下が偽悪的な態度を取る理由を心の中で考え、まとめていたのでございます」
「生意気なやつだ。わたしが頼んでもいないし、しなくてもいいことをするとは。時間の無駄でしかないだろう?」
「いえ、時間の無駄ではございません。わたしはグラスジュール殿下の婚約者ですし、いずれは妃になっていく人間でございます。グラスジュール殿下のお役に立つ為には、グラスジュール殿下のことを理解できる人間になる必要があると思っております」
「ずいぶん大きくでてきたものだな」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「別に褒めているわけではない」
「グラスジュール殿下、わたしはまだグラスジュール殿下に話をしなければならないことが残っております。続けさせていただいてよろしいでしょうか?」
「なんだ、まだあるのか? まあ、よい。続けることを許す」
少し面倒くさそうに言うグラスジュール殿下。
わたしは話を続けることにした。
「偽悪的な態度を取っておられたグラスジュール殿下でしたが、わたしと婚約を結んでからは、少しずつではありますが、変化してきたように思いました。今までは自分の生命を守る為ということが中心で、その為に偽悪的な態度を取ってきたというところでした。もちろんその気持ちについてもわたしは理解をしたしますが。グラスジュール殿下と初めてきちんとお会いした頃は、なげやりで、気力を失っている方だと思っておりました。しかし、その頃に比べると、気力が湧き出し始めたように思います。どうしてそのように変化されたのかということまではわかりませんが、とてもいい方向ではないかと思っております。そして、このまま進んでいけば、あふれるほどの気力を持った方になると思っております。そのようになっていけば、政治の方でも成果を上げていけるのではないかと思っておりますし、わたしとしても、そのグラスジュール殿下に対しておおいに協力していきたいと思っているのです」
わたしのこの話を、先程と同じく黙って聞いていたグラスジュール殿下。
「まだ申さなければならないことがございますが、まずはここで一度、わたしの話を終えたいと思います」
そう言って、わたしが話し終わると、グラスジュール殿下は、
「よくもまあ、ここまで面白い話をしてくれるものだ」
と言った。
グラスジュール殿下は依然として厳しい表情をしたままだったのだけれど、やがて、
「そなたはなぜこういう話をわたしにするのだね。そなたがわたしのことを救ってくれたことについては、改めて礼を言おう。しかし、そなたも十分理解していると思うが、わたしは義理の母親に嫌われ、ウスタードールとも仲が良いとはいえず、周囲のものたちの多くもわたしのことを嫌っていて、このままだと、父上の後継者はウスタードールになる。まあ、別に後継者になりたいと思っていたわけではなかったから、それはどうでもいいことだ。そんな状態なのだから、そなたはさっさとわたしの婚約破棄を申し出ればいいのに、と思っているのだ」
と言った。
わたしが、
「グラスジュール殿下はわたしのことを思ってくださっているのですね?」
と言った。
この言葉に対し、グラスジュール殿下はどう追ってくるのだろうか?
また傲慢な態度に戻り、
「そなたのことなど知るか! いい加減、そなたから婚約破棄を申し出よ。わたしはそなたのことなど何とも思っていないのだ。思い上がるのも大概にせよ!」
と言い返してくるのだろうか?
その場合は、グラスジュール殿下とわたしの心の距離は遠いということになる。
並大抵の努力では埋めきれない距離ということになるだろう。
このままだと、わたしからの婚約破棄も覚悟をしなければならなくなる……。
わたしはグラスジュール殿下の次の言葉を緊張して待った。
すると、グラスジュール殿下は、
「それはそうだろう。これは。わたしだけが背負えばいいだけの話。そなたに迷惑をかけるのは、わたしのプライドが許さない」
と強い調子で言ってきた。
わたしのことを思っているということを直接言っているわけではない。
しかし、
「迷惑をかけるのは、わたしのプライドが許さない」
と言うことによって、わたしのことを思っているということを伝えようとしている気がしていた。
わたしの思い込みの可能性はある。
でもわたしはそう信じたい。
グラスジュール殿下の言葉に対し、わたしは、
「そういうわけにはまいりません。わたしはグラスジュール殿下の婚約者なのですから」
と応えた。
「面白い」
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