第七十一話 自分のやさしさを認めないグラスジュール殿下
「どうもグラスジュール殿下の方から本題を切り出さないので、わたしから話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「本題?」
わたしの真剣な表情と言葉に、グラスジュール殿下は少し驚いているよう思える。
「そうです」
「まあ、いいだろう」
グラスジュール殿下は渋々という感じで了承する。
「ありがとうございます。では申させていただきます」
わたしは一度言葉を切り、心を整えた後、続ける。
「グラスジュール殿下は、わたしだけでなく、周囲の人たちに、わがままで傲慢な態度をいつも取っていると言われていますね。」
「その通りだが、それがどうしたと言うのだ?」
こうしたことに対して自覚はあるということだ。
「それは本心からそうされているのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「わざとそうされているとしかわたしには思えないのですが?」
「そんなことはない。本心も本心だ。わたしはわがままで傲慢な態度を取る男なのだ」
冷静に言っているように思える。
しかし、表情はわずかながら変化していた。
思わずわたしは少し笑ってしまう。
「何がおかしい?」
「いえ、本来、グラスジュール殿下は心やさしい方なのに、なぜそんなわざとらしい偽悪的態度を取ってしまわれるのだろうかと」
「わたしそなたが思っているような心やさしい人間ではない。今までだって、そなたには罵倒をしてきたではないか? そんな人間のどこが心やさしいと言うのだ?」
「先程、国王陛下や侍医の方に心から感謝をしておられましたよね。そして、わたしにも。これはどう考えても心やさしい方が行ったとしか思えないのですが?」
「そ、それは、わたしの看病をし、治療をしてくれたのだから、感謝して当然ではないか? それに、もし、そなたの言う通りわたしがわざと偽悪的な行動をしたとして、わたしに何の意味があると言うのだ?」
グラスジュール殿下はムッとした表情で言う。
今までは、わたしに対して傲慢な態度を取り、嘲笑をしてきたグラスジュール殿下。
それがついに変化し始めたのだ。
わたしはグラスジュール殿下のことを前世の記憶が戻ってからずっと考えていた。
その結果、心に浮かんでいたことがあり、それを心の中でまとめていたところだった。
「グラスジュール殿下、そのことについて、わたしが思っていたことを申してよろしいでしょうか? もしかすると、グラスジュール殿下のお気を悪くすることも申してしまうかもしれませんが?」
「かまわない。申してみよ」
グラスジュール殿下は傲慢な態度を抑え、真剣な表情になっていく
わたしは、
「グラスジュール殿下の今の母上であられます王妃殿下は、実の母上ではないと伺っております。残念ながら、グラスジュール殿下と王妃殿下の仲はよろしくないとも伺っております」
と言った。
このことは、これから話をするのに際し、どうしても避けては通れない。
グラスジュール殿下が怒るかもしれない。
そう思っていると、グラスジュール殿下は、
「そなたの言う通りだ。かまわぬ。続けていいぞ」
と言った。
先程はムッとしていたが、今は怒っていないようだ。
わたしは、話を続ける。
「その後、王妃殿下はウスタードール殿下を産みました。ウスタードール殿下は、王妃殿下にかわいがられ、品行方正に育っていきました。順調に育っていくウスタードール殿下のことを喜んでいた王妃殿下は、しだいに、ウスタードール殿下を国王陛下の後継ぎにしたいと思うようになりました。そこで王妃殿下はウスタードール殿下のことを後継ぎにするべく動きだします。王室や貴族たちを自分の味方に取り込んでいったのです。そして、グラスジュール殿下の評判を下げるような噂を流し始めました。自分の地位を脅かされ始めたと認識したグラスジュール殿下は、本来心やさしいお方なので、最初は王妃殿下を説得しようと思っていたのですが、聞く耳を持ちません。それどころか、それまでに行っていたグラスジュール殿下に対するイジメがエスカレートするようになってきました。グラスジュール殿下の味方は少なくなるばかりでした。しかし、国王陛下はグラスジュール殿下の味方でした。グラスジュール殿下には、『誰が何と言っても、お前以外のものを王太子にするつもりはない。わたしの後継者で、次期国王はお前なのだ』と申されました。しかし、一方では国王陛下は王妃殿下のことを愛していました。その結果、王妃殿下の権力が大きくなる一方でしたので、グラスジュール殿下を支え続けることができるかどうか、心配なところがありました。そして、このままでは生命も狙われかねない。自分の身を守る必要があると思春期を迎えた頃には思い始めておりました」
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