第六十話 王室の状況
わたしは国王陛下に、
「国王陛下のご配慮、理解したいと思います」
と言った。
今まず言えるのはこの言葉だと思ったのだ。
それに対して、国王陛下は、
「そう思ってもらえるだけでももありがたい」
と応える。
そして、続けて、
「リランドティーヌよ、わたしはグラスジュールの回復を信じたい。そして、祈りたい。これがわたしの気持ちだ。そなたには申し訳ないが、そなたにもグラスジュールが回復することを祈ってほしい。そのことをお願いしたいのだ」
と言った。
国王陛下は、わたしの想像以上にグラスジュール殿下のことを評価している。
そして、気にかけている。
後継者はグラスジュール殿下だと思っていることが、痛いほど伝わってくる。
ただ、その一方で、王妃殿下とウスタードール殿下に配慮していることも伝わってきていた。
わたしの聞く限り、グラスジュール殿下とわたしへの批判については、王妃殿下がその中心の一人になって行っているという話だ。
それで相対的にウスタードール殿下の評判を上げていく。
王妃殿下によるウスタードール殿下が王太子の座をつかむ為の作戦の内の一つなのだろう。
国王陛下もそれは良く認識しているはずだ。
グラスジュール殿下が危篤を迎えたという情報が王妃殿下たちウスタードール殿下を推す勢力に流れた場合、その勢力が勢いづくことが予想される。
そして、グラスジュール殿下の健康が回復しようがしまいが、王妃殿下が主導でウスタードール殿下を王太子の座をつけようとする動きが激しくなり、国王陛下の統制を外れた動きになる可能性が強くなる。
どの王国であっても、原則として王位の後継者は、国王主導で決まるものだ。
それができないとなると、王妃殿下の発言力がさらに強くなっていく。
既にここ数年、王妃殿下の発言力は大きくなっていて、国王陛下の発言力は小さくなる一方だった。
特に財政については、王妃殿下の思い通りになってしまった。
今の王妃殿下はもともとグラスジュール殿下の実の母親と肩を並べるほどの美人。
国王陛下が王妃殿下に心を奪われて夢中になったので、このようなことになったのだと言えるだろう。
異性に夢中になること自体は、理解はできなくはないことだと思う。
しかし、その結果、王妃殿下の贅沢が度を越すようになり、財政が赤字に転落してしまった。
これをカバーする為、増税を行ったのだけれど、今度は国民の間に不満がたまってきている。
最近、そうした状況を把握して、反省した国王陛下は、この王国を立て直す為に動こうとし始めたところだ。
そして、王妃殿下は、自分の実の子供であるウスタードール殿下を、国王陛下の後継者にするべく動いていた。
この動きは、グラスジュール殿下を既に自分の後継者にしようとしていた国王陛下の意向に反するものだった。
国王陛下としては、長子で高い政治能力を持っているグラスジュール殿下を後継者にすることについて、いくら王妃殿下が反対しようとも、これだけは譲ることができなかった。
グラスジュール殿下が構想していることを実現する為には、王妃殿下を政治から遠ざける必要がある。
しかし、王妃殿下が政治の表舞台に立ってからもう数年が経っていて、その政治基盤は強固なものになりつつあった。
今の国王陛下は、一歩間違えると、王妃殿下自ら、もしくはその支持勢力によって傀儡にされ、すべての発言力を失う可能性があった。
国王陛下は、こうした動きになることを危惧しているのだと思う。
国王陛下はその一方で、王妃殿下との仲を壊す気はなかったし、その子供であるウスタードール殿下のことも大切にしたいと思っていた。
その思いは痛いほど伝わってくる。
国王陛下の心の中には、王妃殿下を政治から遠ざけなければと思う気持ちと、王妃殿下の要請もどこかで受け入れたいという気持ちという背反した気持ちがあるのだろう。
それでも国王陛下は、王妃殿下を遠ざける方向で動き始めようとしていた。
それだけボランマクシドル王国の状況を憂うようになっていたのだ。
しかし、そうはいっても王妃殿下の発言力は強くなっているので、今は王妃殿下を刺激するのは得策ではない。
だからこそ、王妃殿下を始めとしたわたしたち以外の人たちに対しては、グラスジュール殿下が危篤になったことを知らせず、病気で臥せっているということのみを伝えたのだと思う。
それにしても、後妻・継母・義理の子供という関係は、どこでも難しいものだということは、感じざるをえない。
今の国王陛下の話は、わたしも理解をしていかなくてはならないだろう。
今のわたしにできるのは、国王陛下の言うように、グラスジュール殿下が回復することを祈ることだ。
そのことに、わたしの全力を集中させていきたい。
わたしは国王陛下に対し、
「国王陛下、わたしもグラスジュール殿下の回復を一生懸命お祈りいたします」
と応えた。
「ありがとう。グラスジュールはいい婚約者をもった」
国王陛下はやさしくそう言ってくれた。
すると、グラスジュール殿下が急に苦しみ出した。
「グラスジュール殿下! 大丈夫ですか?」
わたしはそう叫び、グラスジュール殿下のそばに行く。
隣の部屋にいた侍医がすぐに呼ばれ、グラスジュール殿下の診察に入った。
「どうだ、グラスジュールの容態は?」
心配そうに聞く国王陛下。
やがて、侍医は、診察を終えると、
「熱がまた急激に上がってきておりまして、危篤状態に入りつつあります。残念ながら、持って今夜一杯です」
と沈痛な表情で言った。
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